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「文化庁優秀映画鑑賞会」
作品・講師解説

『サンダカン八番娼館 望郷

1974年/俳優座=東宝/カラー/121分
原作:山崎朋子 脚色:広沢栄 脚色・監督:熊井啓 撮影:金宇満司  音楽:伊福部昭  出演:田中絹代、高橋洋子、栗原小巻、水の江滝子、田中健、浜田光夫、岩崎加根子
第4回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した女性史研究家の山崎朋子の原作をもとに、社会性と叙情性を併せもつ作風で知られる熊井啓監督が映画化。かつて東南アジア各地へ身を売られた「からゆきさん」と呼ばれる女性たちがいた。多くは貧しい家庭の出身であり、またその犠牲者であった。日本の近代化の裏にひそむ悲劇的存在ともいえる彼女たちを、映画は大きなスケールで見つめ直し、〈生きた存在〉として映し出していく。目的を伏せて調査をする若い研究者と「からゆきさん」だった老婆との触れ合いを通して、現在と過去を交錯させながら物語は進行していく。なかでも老婆サキを豊かな存在感で演じた田中絹代にとっては、この作品で受賞した国内における各種の主演女優賞、ベルリン国際映画祭主演女優賞が、その長い女優生活の最後の受賞歴となった。「キネマ旬報」ベストテン第1位。
『紀ノ川』 1966年/松竹/カラー/166分
原作:有吉佐和子 脚本:久板栄二郎 監督:中村登 撮影:成島東一郎音楽:武満徹  出演:司葉子、岩下志麻、有川由紀、東山千栄子、田村高広、丹波哲郎、中野誠也
有吉佐和子の同名小説を、劇作家としても知られる久板栄二郎がシナリオ化し、文芸ものを得意とした中村登監督が悠々たるタッチで描いた感動大作。明治から大正、昭和の大きな世相を背景に、紀州・有功村六十谷の真谷家を舞台に、花、文緒、華子の三代にわたる女性の生き方を見つめつつ、古い家族制度が崩壊していくさまが丁寧に描き出されている。22歳で旧家に嫁ぎ、72年の生涯をまっとうした花を演じた司葉子は、時代の激流に翻弄されながらも家門を守り通す女の人生を見事に演じきって、この年の映画賞で主演女優賞を総なめにし、女優としての代表作とした。なお、冒頭の、花が嫁入りのために紀ノ川を下っていく舟のシーンは、名カメラマンとして知られた成島東一郎の技量が遺憾なく発揮された名場面である。
『華岡青洲の妻』

1967年/大映(京都)/白黒/99分
原作:有吉佐和子 脚本:新藤兼人 監督:増村保造 撮影:小林節雄 音楽:林光 出演:市川雷蔵、若尾文子、高峰秀子、伊藤雄之助、渡辺美佐子、浪花千栄子、原知佐子  
有吉佐和子の同名原作を、新藤兼人の脚本を得て増村保造が映画化した作品。日本初の麻酔薬の開発者として名高い、紀州の医師・華岡青洲をめぐる母と妻の葛藤を中心に描いている。加恵は青洲の母・お継に憧れて21歳で華岡家の嫁となった。京都で医学修業を積んでいた夫が帰国するのは3年後である。やがて、加恵をさしおいて、なにくれとなく夫の世話を焼く姑は加恵のなかでライバルとなっていく。嫁と姑のひそやかな対立をよそに、青洲はひたすら麻酔薬の研究に打ち込んでいった。動物実験の段階を終えて、人体を用い効果を試すべきときがきた。その時、自ら実験台になることを申し出たのは二人の女、母と妻であった…。華岡青洲に市川雷蔵、妻・加恵に若尾文子、母・お継には高峰秀子が扮し、すさまじい女の意地と葛藤を官能的に描いた傑作。「キネマ旬報」ベストテン第5位。

『稲妻』

1952年/大映(東京)/白黒/87分
原作:林芙美子 脚本:田中澄江  監督:成瀬巳喜男 撮影:峰重義  音楽:斎藤一郎  出演:高峰秀子、三浦光子、香川京子、根上淳、小沢栄太郎、浦辺粂子、中北千枝子
来年生誕100年を迎える女性映画の巨匠・成瀬巳喜男監督自らが最も愛した傑作。それぞれ父親の違う四人の子供たち。母はそれをそのまま受け入れて暮らしているが、末っ子の清子(高峰秀子)は姉や兄たちの身勝手で無気力な生き方に嫌悪感を抱いている。山の手の世田谷で独り下宿生活を送っているのもそのためだ。次女の光子(三浦光子)が飼っている子猫のように、周りの世話になりたくないのだ。林芙美子の同名小説は1936年に発表されたもので、実母をモデルにしたものだといわれている。成瀬巳喜男監督は、戦前の松竹時代から林芙美子に関心を抱いていたが、映画化の機会をもてないままであった。この作品は『めし』(1951)に続く林文学の映画化である。下町の庶民の姿をいたずらに劇化することなく、静かに見つめているところに特徴がある。
田中澄江脚本。「キネマ旬報」ベストテン第2位。

講師:上倉庸敬
(かみくらつねゆき)
大阪大学文学部美学科教授。芸術及び美に関する思想などを研究。映画にも造詣が深い。
現在、朝日新聞で映画評を連載中。





















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