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フェスティバルゲートで活動する4つのNPOの検証と未来に向けてのシンポジウム


第二回シンポジウム

第二部19:50〜21:45 ゲストによるトーク・質疑応答

甲斐
 では、第二部を始めたいと思います。まずはゲストトーカーのご紹介から。まず、上山信一先生です。上山先生は、慶応大学の教授で、行政経営学がご専門です。今、大阪市の市政改革本部の方にも関わっていらっしゃいます。それと、美術家の藤浩志さん。藤さんは、廃材を利用したりする活動をされていて、 (remoの中の)その辺においてある、ペットボトルの壁なんかも、藤さんが以前来てくださった時に一緒に作ったものです。福岡にお住まいなんですが、これまでも行政から依頼されて、まちづくりプロジェクトなんかのアドバイザーも務めておられたりします。
 打ち合わせらしい打ち合わせはしていません。今日のこのシミュレーションを見て、受けて、お話していただければと思います。どちらか先に、というのがあれば。


 いやあ、参りましたね、ヒルズですか(笑)。実は今年、茨城県の取手市で行っている取手アートプロジェクトに関わっているんですが、取手駅前再開発と絡めて何か出来ないかという話のなかで浮上してきたアイデアが、「取手ヒルズ」なんですよ(笑)。おなじヒルズで参りましたね。ヒルズってもうギャグになってるんですね。でもまあ、いろいろな活動が集積するという思いをイメージするとヒルズになっちゃうのかな。
 ところで僕自身は、3年前ですか、remoの雨森さんに誘われて、下の空き店舗を使って「poly prac. 」というのショールームのような空間を作ってみたり、次の年にはここで地元の子どもたちを絡めるための「ヌイグルミシアター」というワークショップの場をオープンした経緯があります。当初はどちらかというと、スタッフも関係者もこの場所について批判的でネガティブだったと思うのですが…。非常に変なデザインの商業施設であるし、ジェットコースターの音もうるさくて、来場者も少ないし…っと。しかし、プレゼンを聞いた感じでは、皆さんこの施設にすごく愛着を感じ始めていて(笑)、もうここじゃなきゃできないという感じになっているのが、すごいなと。日常ここを利用して、たぶんそんなに使いやすい場所ではないと思うんですよ。でもそれを使いながら、そういう不自由さとか不便さとかを含め、何かひとつの愛情のようなものを感じでいるんだなぁ・・・と。この施設に対する、愛情なくしてはたぶんあのプレゼンはないだろうなと感じました。

甲斐
 ありがとうございます。上山先生、いかがですか。

上山
 はい、あのわたしも感想から入りたいと思うんですが、六本木ヒルズ、行かれたことある人。……あ、結構いらっしゃいますね。あの、ご存じかもしれませんけど、一番上に展望台と美術館がある。夜の11時くらいまでやってる美術館です。その下に六本木ヒルズクラブっていう会員制のおしゃれなクラブがあって、その下がライブラリーなんですね。有料ライブラリーなんですが、東京に事務所のない人がちょっと行ったときに仕事場で使ったり、会員制で月2万か6万か忘れましたけど。雰囲気的にはこういう(remoのような)感じのコンテンポラリー。で、その下がアカデミーヒルズ、大学のサテライトキャンパス。あるいは会議場に使う。コンフェレンスの会場として、わりとステイタス感のある使い方をしている。で、その下に「ヒルズ族」といわれる人たち、IT企業の事務所がたくさん入っている。楽天とかヤフーとか。下のほうが商業エリアですね。そういう姿ですね。さて、ここにある要素は、食べるものはいっぱいあるし、おしゃれなファッションも売ってるし、お勉強する場所もあるし、カルチャースクールもあるし、本当の大学もある。社交、ライブラリー、文化美術全部ある。さっきの第1部の最後のページはそのまま「六本木ヒルズ」と書いても誰も何の疑いもなくじっと見ているっていう……。

甲斐
……レンタサイクルはあんのかな、とか(会場笑)。
 

 
上山
 六本木ヒルズが出来たときに、いろんな賛否両論があったわけですね。そもそも今時あんなバカでかい背の高いビルは時代錯誤じゃないかとか。あるいは一番上に美術館を置くっていうのはあまりにも安易な発想じゃないかと。昔、百貨店の上に美術館を置いて、その下に特売会場置けば、その勢いで一階ずつ下に人が降りてくる。シャワー効果っていうんですがいろんなもの買ってくれるん。今時そんなことを考えてらーってバカにしてた人もいた。でも、実際ふたをあけてみると、一番上に美術館があるというのは、ビルのステータス感を作りだした。それから、テナントにハイテクの会社が入っている。これは、ハイテクとハイタッチ。ハイテクとアートっていうのは親和性がある。ハイテクやってるような人たちって、丸の内とか大手町にいるとダサイって思ってるわけですよね。アバンギャルドだから、ヒゲはやしてポロシャツで。社長自ら「クールビズ」って呼ばれる以前からずっとクールビズで冬も過ごしているっていう、そういうカルチャーです。そういうコンテンポラリーな世界に先端的な企業が来てしまった。ちなみに、大学っていうのはいつも遅れているっていう自意識がある。しかも大学の先生は「大学は遅れているがおれは遅れていない」といつも思っている(笑)。したがってああいう場所を好き好んで来て、アカデミーで教えたい大学がいっぱい来る。ですから、文化が一番上にあって、ハイテク企業も来るし、おしゃれな感じだからってごはん食べたり遊びに来たり買い物したりファッションがあったり、そういうことが一応成り立っているわけです。
 前回ここに来られた方は、大阪市大の佐々木先生の創造都市論を聞かれたと思います。六本木ヒルズというのはあのビル自体が一つの創造都市で成功している。ただし、六本木ヒルズモデルは古いですよね。正しいし、お金もちゃんと回ってるんだけども、いまどきあんなバカでかいものが都会の真ん中に建っているというのはおしゃれじゃないですよね。それに比べると、ビルにジェットコースターが巻き付いているというのはものすごいおしゃれですよね(会場笑)。
 これ見てて思ったのは、すごいなあ、いろんなもの融合させててすばらしいなあと思ったん。
 これからの用途は多分、作るプロセスがすごく大事ですね。たとえばみなさんが、このビルを上から下まで、5人単位でランダムに歩いて、何に使ったらいいか考える。各チーム「クマさんチーム」「ゾウさんチーム」でやって歩いたら、きっとすごいいろんなアイディアが出てくる。今日のプレゼンテーションはアートとNPOのプロの人たち、素人っておっしゃってましたけど、やっぱりプロなんですよね。プロの人が考えたっていういかにもな迫力があったと思うんですけど、みなさんが、「クマさんチーム」「ゾウさんチーム」で見ると、またいろんな用途が見えてくる。たとえばもし幼稚園の先生がいれば、意外とこういうところに幼稚園あってもいいなと思われるかもしれないし、隣に温泉あるからマッサージあってもいいんじゃないかなと、肩こりの人は思うかもしれない。いろんな用途が、なんでもありだと思うんですね。このビルはそこがものすごく面白いし、逆に言うと難しい。固定観念とっぱらってしまえば、幼稚園があってもおかしくないし、美容院があっても全然おかしくない。いろんなことが考えられる。
 障害になっているのはおそらく、床面積あたりお金をいくら稼がなけばならないっていう問題だと思うんです。もちろん風営法、危険物とか消防法とか、そういう問題はあるけれども。
 次の問題は床面積あたりいくらっていうのを、普通の商売として稼がなければならないのかどうかという問題ですね。例えば図書館とか市役所とかいったところは、当たり前ですがお金稼いでない。動物園とか美術館は、床面積あたりいくらで商業地に換算しますと、当然大赤字です。だけど大昔からあるし、みんなあるべきだと思っているし、あって欲しいと思ってる。それから天王寺の駅前に住んでる人たちは、動物園と美術館がなくなると自分たちの商売成り立たないなとしみじみわかってると思うんですよね。こういうふうにして考えれば、このビルの理想はたしかに床面積あたりその辺のビルと同じくらい稼げれば、たぶん管理費とかも回る。しかし、まあそれが稼げないとしても、周りのひとたちがいて欲しいという存在になって、たくさん人がきてどうも楽しそうにしているという状態を作れば、少なくとも動物園・美術館並の存在意義は社会的に認められる。
 波及効果をどう設計するかなんですね。商業ビルだというと、おそらくさっきあったように、壊して建て直すしかない。でもそうじゃないとしたら、何なの?というその定義が難しい。「何でもあり」ということを言わないといけない。で、それをおしゃれに表現すると「ヒルズだ」ということになってしまったと思う(笑)。何でもありだという空間で、どうやって周りに波及効果も与えながら、意味のあるものとして成り立っていけるかと、こういう問題だと思うんですね。
 さっきから100年ごとに繰り返されるって話がありましたけど、すごく面白い。おそらく、動物園つくるときにも同じ議論があったと思うんです。何でサルだとか、首の長い黄色と黒のシマシマの動物を飼ってなきゃいけないのかと、疑問に思った人は非常に多かったはずです。大阪駅ができたときだってそうです。汽車に乗るからっていってホームに靴を脱いで乗ってしまった人がいる、とか。降りたら靴がないので驚いた、とかね(笑)。われわれは2005年の7月に、このビルはいったい何なんだ、ヒルズか、とか議論してますけど、100年後の人たちは、「なんだ100年前の人たちはそんなアホな議論してたのか」これって「なんとかかんとか」に決まってるじゃん、と。われわれが動物園や美術館というものを当たり前のものだと思ってるのと同じような感覚で、たぶん議論するんだろうと思うんですね。
 そういう感じで見ていけば、「もともと行政がつくった」というところがポイントだと思うんです。これナントカ不動産が地上げをして建てた本当のヒルズだったら、たとえば森ビルじゃなくて海ビルかなんかという会社が大阪にあって(笑)、その会社が地上げして300億円かけてつくりましたというような話であればわかりやすい。ところがこれ、大阪市民の血税で建てた建物です。だから原点に戻る必要がある。周りが元気になってるのも含めて、市民が動物園てあっていいよね、というのと同じような感覚で、このビルがあっていいよね、という理解が得られるところまで、見たことのないものを今の世のなかで説明できれば、今のこの建物を壊さずに、何らかの前向きなものに使える道が開けると思うんです。
 これはみなさんの構想力と発信力と何らかのいろんなことの重なりで実現されていくと思うんですよね。すごくある意味で無責任な、マクロな第三者の見方をすると、「生みの苦しみだよね」って。ちなみに世界中でこういうことは起きていて、ワシントンDCですけど、昔の魚雷工場が海の近くにあってどうしようもなかった。古くなって汚くなってつぶそうというときに、地元の人たちとアーティストが、いやちょっと待って、何かに使えるかもしれない、といって、今はアートの実験工房で使っている。ロンドンでは発電所が美術館になっているし、パリのポンピドーセンターは昔の市場です。そういうふうに思えば、ここはやや対応年数が短かかったけど同じです。本当は昔の交通局の車庫を残したままアートスペースにしたりするとおしゃれだったと思うんですけど。これは文化遺産としてとらえなおし、テイト美術館が昔の発電所の跡にあるように、昔の交通局のお遊びのジェットコースターの横に何か新しいものがあると、そういうとらえかたをすればいいんじゃないかと思います。

甲斐
 ありがとうございます。聞いていると、スキーマと言うか、「何々センター」というか「何々スペース」と言うか、ぼくらのほうでも話は出てたんですけれども。海外では現にあったりして、アートセンターと呼ばれたりとか、文化センターと呼ばれたりとか。ところが日本語に翻訳すると、何か違うものになってしまう、どうしたらいいんだろう、じゃあ一気に言ってしまえ「新世界ヒルズ」だ、というのが現状なんですけれども。藤さん、よければ。


 まずひとつは、ここの場所の問題ですね、新世界という場の問題。大阪のなかの新世界を、大阪市はどうしたいのかというところを知りたいですね。そのなかでしか決められないと思います。海外の人に向けてのインフォメーションのあたりはすごくいい提案をしてると思います。僕自身、この周辺に数多くある格安ホテルのひとつに泊まりましたけど、エレベータのなかに「今度の検診は**日です。保険証がなくても検診を受けれられます」とかの常宿にしている労働者向けの張り紙があったりして(笑)、何となく危険な感じもしたのですが、海外の人も含めて、若い人たちの利用を増やしていくと、大阪のなかで特に新しい層の人たちの拠点となるという話はありますよね。で、そのために外来者に対してのホスピタリティの整備も含めて、ここをどういうふうに変えていくのかって重要だと思います。たしかに通天閣という大阪を象徴するものもあって、若い旅行者は、必ずこの街に来ていいわけだけど、フェスティバルゲートには来ないんですよね。知らないんです。認知度低いというか。ただ遊ぶ場所だと思ってるから来ないのもあるんでしょうけど。大阪を象徴するこのエリアに対する大きなビジョンのなかで、この施設の利用法とか利用価値を作っていくということを考えると、今ここに入っている文化芸術のNPOが、ここにある意味が、はじめて出てくるんじゃないかなと思ってるんですけどね。その辺どうでしょうかねえ、先生。

上山
 そうですね、大阪市に限らず役所にあまり期待しすぎてはいけません。結局地域の住民の人たちと、あとは経済原則で、まちの姿は決まってくる。典型的な例が、中心市街地の活性化です。昼間からシャッターが降りているというので、補助金がものすごくつぎこまれています。それぞれの家のなかで何が起きているかというと、ある家はもう年金生活に入っていて、おじいさんおばあさんは二階に住んでいる。息子たちはサラリーマンで、お店をやる必要がないので、シャッターが降りている。で、隣の家に行けば、シャッター下ろした昔の店舗だったところに、なんとベンツがとまっている。本当にお店が成り立たなくなって困っている人ばかりじゃない。 ここの場所も、じつは交通局が持っていた。車庫がいらなくなったのでどうするかとなった。今も交通局が、いろんなアイディアを出している。今も交通局が上に子ども向けの交通博物館を作ってそこで集客をして、それとセットで商業施設をオリックスにお願いしようと、そういう計画になっている。しかしこれは、手離れが悪い。要するに交通局は、土地がもう必要なくなった。ならば、大阪市民に返すべきなんです。もっといえば地域に戻すべきですよね。で、地域に戻して、どういうふうにしたいですか、何に使いたいですかと聞けば、ひょっとしたら公園が欲しいと言うかもしれない。あるいはオフィス街という人がいるかもしれない。あるいは、もっと別のタイプの商業施設という意見があったかもしれない。借金をなんとかしなければならないという責任感はよくわかるけれど。
さて大阪市役所全体のパワーをフルに発揮して、なんとかするぞというふうになれば、ここの管理費なんて大したことない。大阪市内にはナントカ会館ていうのが全部で200個あります。大「大阪市役所」そのものがここを真剣に自分の問題としてとらえた瞬間に、年間一億円かいくらか知りませんけど、その程度の維持管理費っていうのは大した話ではなくなるはずなんです。だとしたらまずは大阪市役所に迫らなくちゃいけない。
 まず私は地域だと思うんですね。とはいってもお金は出せない。大「大阪市」としてどう使うかという議論です。すごい単純な話だけど、例えばここの面積は教育委員会、自由に考えろ。それから隣は健康福祉局、自由に考えろ。って言ったら、新しい行政サービスをNPOと一緒にやってみる実験場みたいなかたちのアイディアをつくっていくことができるかもしれない。あるいは、ここ交通局だけど、別の局、「ゆとりとみどり振興局」がお金を出してくれてNPOのみなさんの家賃を払ってくれているわけですけれども、そういうコラボレーションが「ゆとりとみどり」とのあいだでできているんだったら、じゃあほかの局、たとえば教育委員会とやってもいいんじゃないかとか、あるいは健康関係でできるんじゃないかとか。いろんなかたちで1000万ずつかき集めれば、全部で20くらいの局があるわけですから、2億円くらいは集まるわけですよね。だから市役所として責任を果たすというんだったらそういうやり方もあるし、大阪市役所の縦割りを排除するための実験場だと、あるいはNPOと連携するための実験場だという使い方がひとつあると思います。
 だから切り口はいろいろあるんだけれども、結局おっしゃったように、行政に対してこの地域はどうするんだとか、いったいここどうするのという迫り方を、市民の側からしていかなくちゃいけないと。今のところ、オリックスさんが出てきて交通局がそういう案を出してっていうことにはなってますよね。ただそれがもしうまくいかないとか、それがビジネス的にはうまくいっても地域とか大阪のためにいいモデルかどうかよく判らないということになった瞬間、やっぱり市民運動をするべきだと私は思います。


 さっきの上山さんの話のなかで、プランとして更地にしたほうがいいって話もあったけれども、実際建物としてどうなのかという話はあると思いますね。もう建っちゃってるこの建物。さっきいわれたようにほんとにタームの短い話だけど、つい最近できたばっかりのものだけど、もうすでにバブルの時代を象徴する遺産として…(笑)そういう時代のひとつの象徴的なものとして果たして残していくのか、もしくは潰すのか、という話があると思うんです。潰して新しく建てちゃうっていうのはもったいないじゃないかっていう市民側の意識ってありだと思います。と同時に、使う側としてこれを残して使うと面白いじゃないかという積極的な意見もあると思うんです。ほんとに面白いと思うのであれば、積極的にその面白さを検証して、アプローチしていく手法はあるかなと思う。さっき上山さんがいわれたように地域の人といっしょに、「ここを残すとしたらどういう使い方をしましょうか!」というワークショップを積極的にやっていったらいいだろうなと。そのなかから、新しい利用法のイメージなどが出てくるだろうし、バブルの遺産として具体的にどの部分が面白いのかとかのリサーチもしたりね。感覚的には、僕からすると単純な捉え方だけど非常に大阪的な建造物にも見えますし。僕は今は福岡在住ですが、実は祖父が大阪市交通局で働いていました。もう30年くらい前に亡くなってますけど、市電の運転手をしていたらしいです。1930年代ぐらいの話しですが・・・。遺伝子の記憶みたいなものってあるじゃないですか。この施設の利用者や関係者や周辺地域の人が様々な記憶を抱えながら、できてしまった建物をどうするかということをワークショップの形で検証していくというプロセスはとても大切だと思いますね。

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