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日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


28 京都の暑い夏2007ドキュメント Vol.3

                      まとめ 

                                    by メガネ [dance+]

 3月頃から準備運動を始めたdance+の「暑い夏」活動も、この号でmission completeとなります。今年は梅雨があけて本物の夏が来る前につつがなく。
 その間、このフェスティバルがダンスの教授の場であることを越えて、体験の場としてのクォリティーをどのように保っているのか、何度も不思議に思われました。世界でも引っ張りだこの講師たち。個人能力の高いしたたかなスタッフ。けれども、堅牢な組織があるわけではない。彼らをつなぎ止めているのは高邁な理念でもなさそうだ。おそらく、エマニュエルの指摘どおり、「アーティストが運営主体になっている」ことが、このフェスティバルの基本的な性格を決定しているのでしょう。トートロジーのようですが、アーティストとはクォリティーを知る人ですから。
 では、ここで生み出されているクォリティーは何に宿っているのか。もちろん教授内容とその体験なのですが、それは講師のヴィジョンの特異性や、それを伝えるワークの組み立ての妙にのみよるものではありません。その間に講師と受講者、受講者同士の間で交わされる気づきの双方向のやりとりにも、多くを負っているように思えます。実際、受講生が教わりっぱなしでいるのではなく、質問や思ったことを、折りをみて講師にフィードバックするようになると、クラスの雰囲気が変わってくる。受講者メーリングリストで事務局スタッフの一人が述べていたように、「クラスをつくるのは講師ではなく受講者」なのです。
 事務局スタッフをはじめとして、通訳、ボランティアスタッフのほとんどは、おそらく、このような双方向のコミュニケーションとか、学びのフィードバック・ループに対するセンスを持っていて、講師から投げかけられたボールが一方通行で地に落ちないように奔走しているかのように思えます。例えば思い出されるのは、わかったのかわからないのかもうかがえない受講生の無反応に、ちょっときつめに怒ってみせた事務局スタッフ。アフタートークで質問が出ないときに、お茶目な助け舟を出してくれる通訳スタッフ。一人で奮闘している受講生の元に走ってゆくアシスタント講師。そういった細かいフォローに、このワークショップ・フェスティバル全体の雰囲気は支えられているのです。のぞむらくは、受講者一人一人が、アーティストのヴィジョンとともに、こういった感性を日常に持ち帰らんことを。
 さて、最後にdance+の任務を完了するにあたり、来年の参加者へのものすごく早いお知らせで締めくくらせていただきたいと思います。
 
■ ダンサーとして育ってゆきたい人に 
 京都の暑い夏で得たさまざまなものを糧として、またさらに世界を広げたいというダンサーには、ダンス・イクスチェンジ・プログラムがあります。2005年に始まり今年で3度目の公募となるこのプログラムでは、フェスティバルの指定されたワークショップクラスの通し受講を条件としてエントリーした中から、オーディションを経て2名が選考され、そのチャンスを与えられることになります。研修先はフランスのアンジェ国立振付センター附属のコンセルヴァトワール(舞踊学校)。今年ワークショップ講師として招いたエマニュエル・ユインが芸術監督を務めており、フランス国内でも最も早い時期に設立された、由緒ある国立振付センターです。
 2006年にこのプログラムで選出された合田有紀さんは、2007年2月に2週間の研修を終えました。京都の暑い夏から飛び出したダンサーが、アンジェの寒い冬で体験してきたこと、そのレポートが暑い夏ホームページに掲載されています。事務局によるアンジェ国立振付センターの詳しい紹介もあります。京都とアンジェの交差する場において、合田さんにとってどんな出会いがあり、どんな出来事や体験があり、そして彼が何を持ち帰ってきたのか。どうぞご一読ください。
 今年の暑い夏はこのコンセルヴァトワールより1名のダンサー、ロレンツォを迎え入れました。そして、2名のダンサーをまた送り出すことになるでしょう。

■ 踊りたいけど自分にはちょっと…と思っている人に
 ダンスのワークショップというと、運動神経に自信があったり、リズム感が良かったり、はたまた人前に出るのが得意であったりといった、ダンスに“向いている”と思われるような人が集まる場所だと思われるかも知れません。けれども一般的なダンサーのイメージにあてはまらないからと踊ることを諦めるのは、たぶんもったいない。コンテンポラリー・ダンスには、個々の体のあり方にあうやり方で表現を見つけてゆくものが少なくありません。昨年に引き続きレパートリークラスを担当した大谷さんが教える舞踏も、踊れないことを出発点にするといった独特の考え方にもとづいています。カンパニークラスE-1に参加されたAさんも、そんな舞踏を入り口に、踊れない自分を受け入れることができたと言う一人です。踊りが好きだけど、アクロバティックな動きを要求するレッスンを受けて、自分にはできないと思っていたAさんは、だからこそ、体がきかないことでダンスを諦める人に対して、「自分に合ったダンスが一つ見つかれば、自分が踊れないダンスの楽しみ方も広がると伝えたい」、とおっしゃっていました。

ご協力いただいた方々、最後までお読みくださったみなさま、ありがとうございました。

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