log osaka web magazine index

日々是ダンス。踊る心と体から無節操に→をのばした読み物


34 アジアの現在 LIVE ARTS BANGKOK


《8月3日 13:00-16:00 @同スタジオ》

 リハーサル3日目。前日の夕食時の和やかながらも真剣なトークが功を奏したのか、2人の関係は新しい展開を見せる。リハーサルが始まると、前日同様、2人で静かにウォーミングアップをはじめる。残さんはあまりしゃべらないので、私なんかはつい緊張してしまうのだが、ボイにちょっとした変化が見られた。ボイは、前日の夕食時の残さんのダンスに対する深い思いを知って、残さんを呼ぶときの敬称を、それまでのクン・ザン(「残さん」という意味)からアチャーン・ザン(残先生)へと変えていたのだ。
 タイ古典舞踊という伝統の世界に育ったボイにとって、師弟関係は最も重んじるべき基本的観念。残さんを先生と呼ぶのは、ボイが残さんを尊敬の対象と認めた証拠と考えられる。後で残さんに「残さんから残先生に変わっていますよ」と伝えると、なんだか嬉しそうな恥ずかしそうな笑顔を見せてくれた。


 
 
 
                              ボイに呼吸と身体の使い方を教える残さん


 パフォーマンスで使用するパワーポイントのテキストは、タイ語と英語のバイリンガルで投影する事になり、タイ語訳を通訳の日向君が担当することになった。残さんは、英語訳を作るときにもずいぶん苦労したと聞いた。今回の翻訳作業について残さんに思うところを聞いてみる。

残 「尾崎放哉の俳句は現代人の僕からみても、『そんままやんけ』と思う部分が多くあります。そこが面白いと思ったんです。そのニュアンスを残すために、つい知的にあるいはきれいになりがちな翻訳を自制しつつ、『直訳ではなく』かといって『訳しすぎない』『詩的な』文章へ仕上げて欲しいと思っています」

 英語訳の際も、十分その点を考慮して時間をかけて、翻訳者と多いに話し合って作ったという。しかし、後でわかる事だが、この英訳も、文法上の都合から、文章が日本語と英語で順序が入れ違いになってしまう部分などがあり、一文一文、呼吸にあわせて振り付けが決まっているこの作品では、ざっくり内容を伝える翻訳を作ると動きとテキストが合わないというような問題も起こってくる。大変な作業になりそうだ。

 この2日間で、テキストの全体を説明し、振り付けをだいたい終えた(詳細はおいおいということに)この日のリハーサルの後、ボイに感想を聞いてみる。

いわさわ 「全体を通してみて一番面白いと思った振り付けは何ですか?」

ボイ 「残さんの考えそのものが面白いと思います。あえて言うなら、シーン06-07かな。この感じがなんか変だけど面白いと思いました。それから、まぁ、やっぱり全部面白いんだけれど、最後の幽霊が登場するシーン55-59がすごくいい。この流れ、というか物語を作った残さんのアイデアが面白いと思いました」

 シーン06-07は、残さんによると「まるで遊んでいるようにも見えるシーンですが、実は、作品の中で最初に呼吸と身体の動きとの制限(実に細かくプログラミングされている)が現れ、それを感じられる部分です」とのこと。本作品の振り付けとして、キーとなる呼吸。シーン06-07では、呼吸と身体の動作がいわゆる自然な流れとは相反する不自然な振り付けが登場する。最初から最後までダンサーは「吸って/はいて」のリズムを一定に保ちながら表現をする。呼吸があらかじめプログラムされているために、通常、呼気に合わせて動く身体表現を行ってきたボイにとってはかなり新鮮な振り付けであった事は間違いない。
 また、シーン55-59は、ボイが表現している作品中の人物が大変孤独でありながらそれをしっかり見つめている姿が如実に現れる、作品のクライマックスともいうべきシーン。一文ずつきれぎれに見ていると関連のないように思われるテキストが、その間を埋める身体表現によって、ひとつの物語として、見る者の前に、たちあがってくる。そんな印象をもったシーンであった。日本語のニュアンスを理解するのに戸惑っていたボイに、残さんは大変丁寧にテキストの意味を説明していた。それは、残さんにとって、この作品はテキストと身体表現がかけ離れすぎていてはいけないというこだわりがあったためだ。ただし、テキストが身体に移されるあり方は様々。「わりと日常的な感じで」とか、「自然に」とか、あるいは「音楽を奏でるように」という指示が残さんからボイへ発せられる。最初のころ、ボイはずいぶんこの「自然に」に戸惑っていた。その写実的に見える手法がどうしても演劇的に思えてしまったり、迷ったりしながら自分の動きを探っていた。

 リハーサル終了後、ボイに「写真を撮るからポーズして」とお願いしたら、こんな2つの顔を見せてくれた。国立舞踊学校時代に培われたタイの古典舞踊の要素と、大学時代から様々な場所で吸収してきたモダンあるいは、コンテンポラリーの要素が共存している。


 


 
 
 
             タイ古典舞踊とモダン(コンテンポラリーというべき?)。2つの顔を持つボイ

<< back page 1 2 3 4 5 6 7 8 9 next >>
TOP > dance+ > > 34 アジアの現在 LIVE ARTS BANGKOK
Copyright (c) log All Rights Reserved.