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<けったいな縁>で大阪に居ついてしまった<ぶち>が、心に映ったつれづれを独り言。
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+ 石淵文榮
ライター
筑波大学芸術専門学群美術専攻彫塑コース卒。大槻文藏事務所、(財)大槻清韻会能楽堂企画室を経て、現在、新聞・雑誌等に、主に能楽に関する記事を執筆。文化庁インターンシップ・アートマネジメント平成12年度研修生。


桂米朝×竹内駒香vol.3 やっぱりお酒

再び、米朝師匠と駒香姐さんのお話のつづき。  
菊原初子さんの船場言葉が綺麗だったと言う話から、東京での大阪弁の話に…。
 

 
駒香姐さん(以下、お姐さん)「東京へ参りましてもね、この頃は私も大阪弁丸出しにな(笑)。今まではええ顔して、タクシーの運転手さんにも'あ、そう、行ってね'っちゅようなこと言うてね(笑) 」
米朝師匠(以下、師匠)「ははははは(笑)」
お姐さん「'向こう曲がっちゃって、こっち曲がっちゃって'って言うとな(笑)、歌舞伎座ぐーっと(前を通りすぎて)曲がってくれんねん(笑)。もうそれから、うっかり言うたらあかん思ってな(笑)。この頃はバーッと(大阪弁で)言いますねん。'ここ、ほんならどないする?ほな何時に乗ろな'言うて話してたらな、その運転手さんがな、'お客さんは、関西ですね'。'はあ、そうでんねわ'。'よろしいですよー!'言うて。'はあ。なんででんね?'言うたらな、運転がうまいこといくらしいねんて。やんわりして」
米朝師匠「ほぉん」
お姐さん「ほいでね、東京弁やったら、乗せますがな、ほんなら、'ああ行っちゃったの?ダメね!'て、ちゃっちゃーと言うからパパーッと行かなあかんねんて(笑)。せやけど、隣で'ほなしゃあない、そうしまひょ'言うてたらな、勝手に車がフーッと…」
師匠「はっはっはっはっ(笑)」
お姐さん「この頃、特にそない仰いますねん。私が物言いますのが、もちゃもちゃ言いまっしゃろ?それもええらしいねん、環境にね」
師匠「ほぉー」
お姐さん「グエーッとしてる世の中で、ホゥっとしはるらしいねん」
師匠「ひょっとしたら、その人は、東京の人ではないんかもわからんね」
——— なんか懐かしいと言うか…。
師匠「関西やのうてもね。青森から来てようがやね、新潟から来てようがやね」
お姐さん「懐かしかったんやと思いますわ。私らが物言うのがね、あほなこと言いまっしゃろ?自動車に乗っててもな。それがええらしかったですわ。食べることばっかり話ししてな(笑)。どこで食べよばっかり(笑)。東京行ったら食べることばっかり!この頃(笑)。(舞台が)済んだらどこも行くとこないから、しゃあない、食べよか食べよかばっかりでね。'何がええ?''ほな肉にしよか'言うたりしますねや」
——— 東京ではどこに泊まってはるんですか?
お姐さん「もう十何年から銀座丸ノ内ホテル行ってましたんや。ほならな、(ホテルが営業を)止めましてん。土地きれいにな、してしもて。こないだちょっと覗いたら、みなきれいになってしもて。あっこ便利やねん、ちょうど裏が歌舞伎座やしね」
師匠「はいはい」
お姐さん「んで、銀座に行くのにちょうど金光教会がありましてな、お参りに行くのにちょうどよかったんですねん。ほいで、半蔵門のなんやったか名前まだ覚えられへんねんけど、国立(劇場)がわりと近いもんでっさかいな、そこへこの頃泊まってますねん。前から国立の人が言うてくれてはったんですけど、ちょっと歩かんならんのがいややったんでね。雨降って傘持つと、三味線がね…」
師匠「はいはい」
お姐さん「それで、銀座のほうへ泊まってたんですけど」
師匠「あんまり近いと車に乗るわけにいけへんしね」  

小柄なお姐さんが三味線を持って移動するのはたいへんだ。  
相三味線の藤田小道さんとは名コンビだったが、その小道さんが亡くなられてからは、駒香姐さんは三味線も弾いている。
 

 
お姐さん「せんせも忙しおまんな」
師匠「いやいや。もうあきまへん。もう、なるべく、仕事を減らすように減らすように…」
お姐さん「そんなんさびしいわ、減らしてもうたら、こっちが」
——— 減らしてはってもかなり(笑)。
師匠「いや、前より(仕事量を)3分の1に減らしたかて、身体のエラさはいっしょですわ」
お姐さん「ワッハ上方てありまんな。こないだあそこで唄わしてもうたんです」
師匠「あそこで?何の会で?」
——— 舞踊の会なんですけど、地唄はお姐さんが唄わはったんです。
師匠「狭いとこやけどね」
お姐さん「せやけど、ようけ入りますわ。こじんまりしてて」  

大阪でも、もっといろんな人にお姐さんの唄を聴いてもらえたらいいのに…。

お姐さん「せんせ、いっぺんお流れ一杯いただかれへんやろね」
師匠「こっちからいただきたいと思てまんねや」
お姐さん「いやいや、失礼でっけども、いただきま、お流れいっぺん」
師匠「わあ、つらいな(笑)、駒香姐さんに(笑)」(と、自分の盃を呑み干して、お姐さん渡して、お酌をする。)
お姐さん「おおきに、おおきに、ありがとうさんです」
師匠「あいそもなんにもございませんが」
お姐さん「へえへえおおきに」(と、美味しそうに呑み干す。)
師匠「一番飲み盛りは、やっぱり一升くらい呑みはりましたかな」
お姐さん「昔はね、よう呑みましたからなあ」
師匠「一升ではきかなんだかもわからんな」
——— 量ってはれへんさかいね(笑)
お姐さん「何升呑んだかはわかれへんけど、洋酒がかないまへんね」
師匠「私もね」
お姐さん「<ニコラシカ>言うのご存知でっか?あれな、えらいもんでんね。ブランデーに檸檬とお砂糖のせて…」
——— なぜかチョコレートの味がする(笑)。でも、あれ、おいしいんですよね。
師匠「あれ、一気にカッといかなあかんねん。せやけど、まわるでしょ?グワーッと」

横で<ニコラシカ>の解説をしている間に、師匠とお姐さんは注しつ注されつ…。

お姐さん「ちょっとどうぞ」
師匠「ありがとうございます」
お姐さん「あ、これ、ちょっとぬるいかもわからん」
師匠「ええ、けっこうですけっこうです。へえ、おおきに」(と、お酌を受ける。)  

ふたたび<ニコラシカ>。

お姐さん「でね、そのブランデーがね、高つきまんねや、そのブランデーが」
師匠「はあはあ」
お姐さん「(笑)ほんならな、そのお客さん呑みはれへんのに、皆呑むモンばっかりでな、いっぺんあれ流行ってるから<ニコラシカ>しょう!言うてな」
師匠「いや、あれはね、はか(=量)が行きまっしゃろ?ブランデーがじきにカラになってまいよるんだ」
お姐さん「それでな、お客さんが、あんな高いの、かなん(=かなわない)言うて(笑)。もっと安いブランデーて(笑)」
師匠「(笑)あんなもんやる時は、そら、上等のねえ、ブランデーでないと…」
——— えらいことになる(笑)。
お姐さん「それがね、(他の)お客さんがええの持って来はったん。そしたら、'そんなもん持ってきて、何呑ましても堪えへん!'言うて(笑)。'もっと安いの持って来ぉい!'言わはってね(笑)。皆な、<ニコラシカ>を7、8杯も呑んでフーッとしてんねん。しまいに目が回るぐらいフーッとしましたわ(笑)。せやけど、ええあんばいですねん、酔い方が(笑)」
師匠「(笑)あれ、一息に、ま、2杯もいったら、たいがい目が回りますわ」
お姐さん「せやけど、こんなもん呑めるかしらと思うねんけどな、ガッとやったらな、口がフワーッとしますねや」
師匠「あれ角砂糖?」
——— いえいえ、普通のお砂糖です。まずお砂糖ののった輪切りの檸檬を口の中に入れて、ブランデー呑みますねん。
お姐さん「美味しかったぁ、あれ」
師匠「いや、あれ、私も、やれ言われたけど、もうそんなもんやってもたら、ええかげん(お酒が)入ってるあとやったんでな、これでやったら、あと往ねん(=帰れない)ようになる言うてね。<爆弾のみ>っちゅようなのもあったな」
お姐さん「ああ、ああ」
師匠「<爆弾のみ>言うのはね、こう、タンブラーのちょっと太いやつにね、ここへ、ウィスキーのシングルのグラスを入れて、そこへウィスキーをいっぱいいれたあんね。ほいで、ぐるりに氷水を入れたあんね。ほいで、それを一気に呑むんや」
——— 氷水といっしょに?
師匠「そうや。そうするとね、舌上をウィスキーが通って、ぐるりを氷水が包んでやね(笑)、ほいで、きもっちよう入んね。」
——— はあ!
師匠「ほいで、なんとなく美味しいような気がすんねやな。ほいで、これをやったら、調子よう、つい3杯でもいってまうわ」
——— それで、クッと(笑)。
師匠「腹ん中で水割りになんねやけどな(笑)。そうすると呑みやすいねや、これが」
——— 酔うといえば、東京で<電気ブラン>いうのありましたでしょ。関西にはないんですか?
師匠「関西にもあったんやけどな。<電気ブラン>という名前だけ。'昔なつかしカミヤの電気ブラン'言うて、京都のね、NHKに、(旭堂)南陵(=先代)のおとっつぁんの浅井が、これがまた名物男や。この浅井とまだ小南陵やった南陵と私と3人でね、呑んでたん。'<電気ブラン>いうのがあるんやけどなぁ'言うてね」  


やっぱりお酒の話で盛り上がるお二人。  
さて、<電気ブラン>と呑み助3人組のお話は次回のお楽しみ。

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