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飲食店、商店街、ネオン街……
歩くほどいろんな顔が見えてくる。
こだわりの町にようこそ。
(野村ゆき=取材) 

秋といえば十五夜と並ぶ名月に『十三夜』なるものがある。とすればこの『十三』という地名、あなどれない。淀川の上流から数えて十三番目の渡しがあったことが、この町の由来らしいけど……。こじつけ半分、興味半分。秋の散歩にうってつけ! とばかりに、十三の町へと繰り出してみた。


十三屋 十三本町1-2-3
TEL.06-6308-1778 

 阪急十三駅に降り立ち、お昼前のスタートということもあって、食べ物の匂いに誘われるように西口を出る。駅前の十三本一商店街を右に折れると、細い路地の両側にたくさんの大衆酒場が肩を寄せ合い、なんと! 大半の店がまっ昼間からのれんを下げて営業中。その中でもひと際、にぎわっている『十三屋』をのぞいてみることに。カウンターに腰を据えて赤ら顔で独酌するオッチャン、テーブル席で昼食がてら仕事の話をするサラリーマンなど、いろんな人たちが思い思いのペースで酒や料理を口に運んでいる。いちばん高価な料理が刺し身の盛り合わせ八百円。どて焼きやおでん、天ぷらなどの定番メニューに混じり、クジラやアユを使った珍しい一品まで。「メニューの数はざっと百種類。飲んで食べて、一人あたり千円あればOKやな」という店長・川本八朗さんの言葉を聞き、その料理の品数と安さに思わず頬がゆるむ。
 朝十時という驚くべき開店時間は、近くの工場で働く夜勤明けの常連客のリクエストが発端。夜になるにつれて客層の中心は京都・宝塚・神戸方面へ帰る通勤客へと変わり、最近では若いOLが数人で訪れることも珍しくないとか。実は店長の川本さん、元サラリーマンという経歴の持ち主。その経験から仕事で嫌なことがあったお客さんの顔は、ひと目見ただけでお見通し。
 「だからって余計な口出しはせーへんで。目で訴えかけてきた時だけ、ひとこと『大丈夫、がんばりや』って言う程度や」と控え目に笑うが、その励ましがキッカケで「会社を辞めずに済んだ」というサラリーマンが、今もこの店に通っているのだと、店員さんがこっそり教えてくれた。
 この通りから駅側へ一本入ると、石塀に鳥居の形をした赤い木型が音符のように並ぶ細い路地がある。その名も『小便横丁』。現在は一角に公衆トイレができて鳥居が目を光らせる必要もなくなったが、かつての生き証人がこうして今も残されているのが微笑ましい。ここでも何軒かのバーやスナックが目につくが、こちらは夕方からオープンの店が多く、壁に大きなバラの絵が描かれた妖しげなお店など、先ほどとはまた違ったディープな雰囲気。機会があれば、恐いもの見たさでのぞいてみたい気もするけれど……。

喜八洲総本舗 十三本町1-4-2 
TEL.06-6301-0001
 さらに元の駅前に戻って商店街を西へ歩いてみると、ほのかに甘いお酒の香りがホワ〜ン。でも、今度は飲み屋さんではなく『喜八洲総本舗』という和菓子屋さん。酒まんじゅうをはじめ、俵形のみたらしだんご、きんつばなどがいかにもおいしそうな顔をして店頭に並び、風格のある看板を掲げた店構えが、道行く人の足を止めさせている。

 国道の交差点を渡ってすぐのところでは豚まん、餃子、焼売の専門店『京園』を発見。「仕込みたて」「つつみたて」「むしたて」「やきたて」と、たたみかける手書き看板がユニークで、店先にあるセイロの湯気が食欲をそそる。ドアの小さな貼り紙に、地方発送の注文客一人ひとりの名前がびっしりと書き込まれていた。
京園 十三本町1-8-12
TEL.06-6302-0449

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