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寶屋 十三本町1-9-20
TEL.06-6301-6217

 そこから残暑の陽射しを避けるように、十三フレンドリーストリートのアーケードへ。今風のカフェ、携帯電話ショップ、ファストフード店と、随分前からそこにあるのではないかと思われる洋品店や金物屋、時計店などがごっちゃ混ぜ。その中で目を引くのが粟おこしを売る『寶屋』で、店のあちこちから「天神さん」の神紋である梅の花が刻まれた古そうな道具が顔をのぞかせている。
 「昔、戦争でこの辺り一帯が焼けてねぇ。これは偶然焼け残った引き出しや木箱。店を建て直した後も、こうして飾ったり使ったりしてるんよ」と、三代目の奥さんである澤木すみえさん。大阪で粟おこしを扱う店は数あれど、菱形のおこしを製造・販売しているのはここだけ。百貨店などに一切、卸していないので遠方から買いにくるファンもいるほど。
 やがて通りの名は、いつの間にか十三本町商店街に。さらに西に続く「もといまロード」まで、三つの商店街が一つのアーケードでつながっていて、総延長は五百メートル以上にも及ぶ。そのちょうどど真ん中に位置するのが、『喫茶室doman』。イスもテーブルも使い込まれていながら、デザインは古びていない。近未来のイメージすら漂う。表看板の「ロマンムードのオアシス」といううたい文句がぴったりはまる。BGMのジャズに耳を傾けながらコーヒーをゆっくり味わい、通りと反対側の窓の外にある植木を並べたミニガーデンを眺めていると、さっきまでにぎやかな商店街を歩いていたのが嘘みたい。
 「昭和三十九年のオープン当初から商店街は新しくなったけど、ウチはずっとこんな感じ。当時の内装をしてくれた業者さんも『ここだけは変わらへんなぁ』と驚いてはります。家具は何度も修理して使ってるからボロボロやけどね(笑)」と店主の村上美代子さん。現在、父親が開いたこの店を受け継ぎ、二人の娘さんと一緒に切り盛りしている。村上さん親子同様、三世代にわたってこの店に通っているという地元のなじみ客も多い。 
 「でも、つい長話してしまうのは顔見知り程度のお客さん。きっと、お互いよう知らんからこそ話せることってあるんでしょうね。ホンマ、この町にはいろんな人がいてはりますわ」
 隣りに建つ映画館では、アニメ映画と成人映画を仲良く並んで上映中。その向かいの漢方薬局の店頭では、なぜか健康によくないはずのタバコが売られていたり。こういう光景も、この町の懐の深さを物語っているように思えなくもない。


 そんな風に考えながら歩いていくと、十三バイパスの高架を越えた向こうに、「もといまロード」が見えてくる。入口のスーパー『ピュア13』は、かつて十三公設市場だったところ。その影響なのかこの商店街には今も総菜や鮮魚、野菜を扱う昔ながらの対面販売の商店が残っていて、かなり庶民的なムード。旧市場の裏側は戦火を免れた地域でもあり、ちょっと横道にそれると所々に古そうな民家も。駅前からここまでの道のりで、十三の今昔物語をダイジェストで見たような気分になる。



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