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 再び商店街を国道の交差点まで戻り、今度は右へ。十三きっての歓楽エリア、栄町に突入する。日没まで少し時間があるせいか、町のネオンはまだお目覚め前。アーケードがなく道幅も広いから、夜とは違う意味で開放感がある。そろそろ歩き疲れて小腹が空いてきたところに、『やまもと』の看板が飛び込んできた。元祖ねぎ焼きの店として、関西ではあまりにも有名。この日も観光客とおぼしき数人の若い男女が並んでいた。

やまもと 十三本町1-8-4
TEL.06-6308-4625
<西店> 十三本町1-7-20
TEL.06-6303-8482
 「カウンターだけの小さな店やし、注文が入ってから一枚一枚焼くからね。表で待ってもらうこともあるけど、いっつも行列してるなんて嘘やで。もしそうなら、今ごろもっとエエ服着てますよ(笑)」と社長の山本美徳さん。昭和三十三年に山本さんの母親である高恵さんが、お好み焼き屋さんとして実家の一階に開業。鉄板の片隅で焼いていた、まかないのねぎ焼きをお客さんの要望に応えて提供するうち、看板メニューへと発展した。たっぷりの青ネギと甘辛く煮込んだ神戸牛のスジ肉が混ざり合う「スジねぎ焼き」が一番人気で、山芋を入れてないのに驚くほど生地がふんわりとしている。
 「お客さんの意見を聞いて生地やタレの改良を重ね、正式メニューに加えたのが開店から三年目。お客さんに育ててもろて、今の味にたどり着いたんですよ」
 ねぎ焼きを手際よく焼くのは、兄弟や甥など山本さんの家族。一家で元祖の味を支えているのである。
 店を出るころには、辺りの景色も一変。眠りから覚めたネオンがいっせいに原色の光を放ち、どの看板がいちばん目立つのかを競っているように見える。会社帰りのサラリーマンなど、人通りも増えてきた。そんな中、電飾系の看板を掲げずに地味な佇まいで訴えかけてくる和菓子屋さん『本家 永楽堂』が目にとまる。店の奥には、何やら古そうな鏡餅をかたどった大きな木彫りの看板が……。

永楽堂 十三本町1-7-28
TEL.06-6301-5020
 「もともと正月の『お鏡さん』を主にこしらえてた店でね、創業は明治四十四年。戦後すぐここに場所を移して、私が店を継ぐ少し前くらいからかな。釣具屋、散髪屋、うどん屋が商売をたたんで、次々とネオンに化け始めた。今もこの店の三階に住んでますけど、夜なんて電気つけんでもエエくらい明るいですよ」と苦笑する三代目店主・谷澤康之さん。環境の変化で人の流れも変わり、客層も昼間は「おなじみさん」、夕方から酔客などの「イチゲンさん」と時間帯で異なるように。営業時間を朝から深夜まで十一時間に延長して、十三にちなんだ新しい創作和菓子にも取り組むなど、幅広い客層に応えている。これからの季節は、大きな栗が丸ごと一個入った「大粒栗」、チョコレートを練り込んだ生地で栗を包み込んだ「栗知予湖」がお薦め。もちろん正月用の鏡餅は現在も製造中で、作業場には創業当時からの石臼や木製の大きな米びつなどが並び、出番を待っている。
 「新しい店ができたからいろんな人が来る。そう考えれば、このネオンも町の活性に貢献してるんかなぁ。一時、隣りのビルに映画館ができてエエ感じで人の流が変わったと思ったんやけどね……。大都会と違って人もぎょうさん暮らす町やから、人間臭さだけはずっと残っていって欲しいと思います」

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