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解散を出発の糧にして 西尾雅
本作をもって17年に及ぶ立身出世劇場の歴史が閉じられる。Good-by My Sweet Homeの副題に旅立ちの思いがこめられる。劇団の解散は終わりではなく、個々の新たな出発とあくまで前向き。けれど、卒業の晴れがましい巣立ちにも一抹の淋しさはつきもの。劇中死んだ恋人と再会するシーンで、死者の国で待つ彼女は生きる希望をなくした彼氏に「もっと自分を磨きや、新しい彼女早よ見つけや」と励ます。それが座長から劇団員への手向け。恋人を想う彼女の本心は「私のこと忘れんとってな」。そう叫ぶ村井千恵の白一色の清楚な立ち姿に、劇団の歴史と再出発の決意が重なる。立身出世劇場をこの日の観客が忘れることはない。

立身出世劇場ほど大阪を感じさせる小劇場は他にない。新世界は通天閣の大衆演劇のノリにフォーク世代のモダンな感性と場面転換のダイナミズムに見られる小劇場的な演出が加わる。大人数の劇団員が家族同然の連帯感で結ばれていることは観客にもわかる。作品ににじむハートウォーミングはカンパニーの人間関係に由来する。主宰・関の包容力と劇団員の人間味が芝居に出る。ハッキリいって関以外に器用な役者はほとんどいない。けれども、関の手になる脚本は個々の役者にアテて書かれ、彼らの個性と長所を伸ばそうとするやさしさで満ちている。

最終作品ともなればとりわけ全員のキャラを活かす。そのため多少話に不合理が生じても意に介さない。たとえば、恋人を亡くした例の青年(山本)は部屋に引きこもり、他の住人とまったく会話をしない。幻の恋人以外に彼と話すのは愛猫だけ、彼の登場は安下宿の住人と完全に分離している。死者の国に通じる猫の世界が宮沢賢治の童話のように重いテーマをやわらかく抱きとめる。死後や終わりの果てに希望を見出せるのはファンタジー仕立てならばこそ。

メッセージを中堅の山本と村井に語らせ、花を持たすが、見せ場は全員のアンサンブル。今どき風呂なし共同トイレの古アパートに暮らす学生とOBの群像劇。住人を代表するひとりが、留年をくり返しついに退学となる石毛(広島)。遠征で留守がちな冒険家・東(関)のアルプス登頂を好サポートした経験を持つが、欲がなく浮世離れした性格は実社会に向かない。が、彼のモラトリアムは時間に追われる現実に一服の清涼感をもたらす。UFOや奇説を盲信する現冒険部部長(上畑)も、見事に恥ずかしい青春の1ページ。親が決めたお見合いをブッチしてそのまま家出、幼なじみの元へ駆け込むお嬢様も若さの象徴。その志保(三浦)が頼る当の彼(浜口)は、マルチ商法に騙され借金まみれ、あげく失火で住むところなく、居候の石毛のそのまた居候の身。およそ頼りにならず生活力もない彼らに注ぐ東のまなざしに関の劇団員への思いやりが投影される。

名だたる冒険家・東の唯一の弱みが、アパートを祖父から引き継ぐ管理人・木綿子。東のライバルでもあった冒険家の彼氏を亡くして以来、木綿子は他の男に見向きもしない。彼女の中に恋人はまだ生きている。哀しみを内に秘めながら、住人を気遣い明るさを失わない凛とした佇まいは、看板女優・原尚子ならでは。派手に大輪の花をひけらかすタイプではない。けれども、抜群の安定感で劇団の屋台骨をしなやかさに支える。失意を乗り越えた彼女の笑顔はさらさらと吹く希望の風。劇団が解散しようとも、止むことのない風がどこまでも広がって行く。


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■卒業公演
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