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宝塚女性作家の新たな可能性 西尾雅
植田景子、児玉明子に続く宝塚3人目の女性演出家・小柳菜穂子のバウホール3作品目。デビュー作「SLAPSTICK」(02年6月)、前作「アメリカン・パイ」(03年6月)はそれぞれケラリーノ・サンドロヴィッチ「SLAPSTICKS」、萩尾望都のコミックが下敷き、原作なので、本格的なオリジナルとしては初。小劇場のセンスとタカラヅカの豪華さが融合した彼女ら若手演出家の台頭は宝塚の新風。ベルばらで一世風靡した植田信爾理事長の退任も発表され、90周年を迎えたヅカの今後が示される。

「NAKED CITY」は50年代に活躍した実在カメラマンの写真集タイトルから。ゴシップ写真が専門、警察無線を傍受して現場に駆けつけたパパラッチの元祖。作・演出家は、彼が写したモンローの写真から想像を広げる。ハリウッド女優デイジー(遠野あすか)がパトロンのウィリアム(矢吹翔)に伴われニューヨーク訪問した現場をビリー(彩吹真央)はスクープする。が、マフィアとの同伴を写されて困るはずのデイジーが、ビリーの事件を嗅ぎつける能力を気に入り、逆にニコラという人物を探すことを依頼する。

同じ頃、西海岸を牛耳るウィリアムと対立するニューヨークマフィアや警察もニコラを捜索中。ウィリアムの部下ニコラ(愛音羽麗)はニューヨークマフィアの麻薬取引ルートを警察に漏らしたと疑われ、組織から追われている。が、情報を流したのは実はウィリアム、西海岸だけでなくニューヨークをも支配下に置くべく警察幹部マイク(一樹千尋)と組んでニューヨークの麻薬ルート壊滅を画する。かつて共産党シンパだったマイクはレッドパージで追われニューヨークマフィア取締の実績をあげることで起死回生を狙う。ニコラはボスの女デイジーと恋仲、秘密を知るニコラをこの際情報漏洩犯に仕立てることで、ウィリアムは一石二鳥の始末を企む。

場面転換が早く、ショーに組み込まれてストーリーが流れるように進行する。人混みあふれる街頭や生き馬の目を抜くゴシップ紙編集部、スラムやダンスクラブなどさまざまなシーンが飛び出し、わい雑で活気あふれるニューヨークを活写する。おそらく作者が一番描きたいのはひとつの生命のようなニューヨークという街。伏線とサスペンス謎解きにも無理はなく、山場となるビリーとマイクの対決にテーマを持たせる。マイクこそ、ビリーやビリーの母を捨て出世を選んだ父親。貧乏かつ不幸な生い立ちが、ビリーを幸福な写真は撮れないゴシップ専門カメラマンにする。もともと理想家ゆえ陥穽にはまり、悪役ウィリアムと手を組まざるを得なかった父マイクの悲劇も際立つ。悔いるマイクは初心を取り戻し、親子の絆も回復する。

かつて娼婦同然だったデイジーはウィリアムに拾われ、過去を消し映画女優として成功する。その秘密をバラすと脅され、いったんは恋人ニコラを裏切るが彼を忘れきれない。デイジーを想うニコラもまた同じ。ビリーとマイク、デイジーとニコラ、下町で生まれ育った者が互いを赦す。片隅の小さな人間ドラマがニューヨークという大都会を支えている。

彩吹、愛音そして未涼亜希(ゴシップ紙社員)の成長に目を見張る。おトボケもうまい彩吹と未涼、立ち姿が燐として文句なくカッコいい愛音。専科の五峰亜季(ゴシップ紙編集長)やダンススペシャリストの高翔みず希、矢吹も個性的でいい味。息抜き役の警官2人組(悠真倫、望月理世)も、最後に上司より正義を優先していいところを見せる。ビリーと同棲するキャシー役・華城李帆がニコラを心配するビリーに嫉妬する場面は身につまされる。本来宝塚では、彩吹と遠野がカップルのはず。が、2人はカメラマンと被写体の関係を超えない。2人とも恋人がおり、あくまでプラトニックなままなのがとても新鮮だ。

大忙しのアンサンブル陣はダンスが光る。が、作品を引き締めているのは、何といっても専科の一樹の存在感。捨てた息子との再会でかつての自分を思い起こし、理想と現実の狭間に苦悩する。人間の弱さ愚かさを体現する姿は、ギリシャ悲劇のような神々しい哀しさに満ちている。

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