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パフォーマー
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会場
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公演日
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皮肉と毒で妄想に冷や水 |
西尾雅 |
かつては尖がった美術と破壊的なまでの音量で、バイオレンスかつパンクなパフォーマンスを前面に押し出したクロムが、今はほどよく力が抜けてイイ感じ。三好淑子(WI'RE)の在籍当時は、狂気をはらんだ眼光に思わず後ずさったほどなのに。アグレッシブで挑戦的だった姿勢が、恋愛を皮肉る「直接KISS」(03年4月)、劇団旗揚げに表現規制を織り込んだ「なかよしshow」(04年1月)と日常を題材に取り入れて軌道修正。韜晦を装いゆるやかに見せるが、皮肉と毒は変わらず、骨太な批判精神も健在。受け入れやすい提示方法を手にして快調に飛ばす。もはや必携の通話機器に収まらず、持主の分身と化したケータイをテーマに、不協和音を奏でる現実の人間関係を描く。セルラ、エユ、ヴォーダと呼ばれる女優が道具である電話、つまり記号化された女性を演じ、モノが人に所有されるのではなく、人格がキカイに支配される逆転現象を象徴する。運転中のケータイを禁止と知りつつつい操作するように、矛盾に振り回される人間の弱さをあぶりだす。簡単にケータイを買い替える消費行動が、カノジョをすぐ乗り換える安い恋愛に置き換えられる。拾ったセルラにすぐ心奪われる男キムラ。おかげで捨てられた旧いケータイ、ヴォーダは腹いせにセルラ誘拐をデッチ上げる。セルラの元の持主に身代金を要求してちゃっかり金を手に入れる。元の持主イケハタには監禁癖があり、どうやらそれを嫌ったセルラが自分から逃げ出した様子。それを裏付けるようにイケハタの別の電話エユも、セルラが連れ戻されまたもイケハタに拘束されるや、イケハタの元から家出する。いっぽう身代金を使い果たしたヴォーダは街を彷徨い、身を売るまでに落ちぶれる。そこで出会うのが、かつてヴォーダがジェイフォンと名乗った頃の古い持主ヨコヤマ。ジェイフォンをなくしたショックで彼は精神障害を起こしており再会を果たしても、変わり果てたお互いの姿に2人の記憶は戻らない。ちょっといい話になりそうなところで寸止め、それまでおとなしいヨコヤマが暴走し狂気をのぞかせるのがいかにもクロム。冬眠カプセルからヘッドホンが伸びる充電装置やボンデージ縛り、イケハタから呼び出されるとセルラの胸元の風車が回るアンニュイな着信音など細部の作りも楽しい。いつまでも昔の恋人を追い続けるヨコヤマの未練。拘束がイヤで逃げ出すが、またもや拉致され監禁されるセルラの不幸。人は恋愛でも依存や連鎖、同じ過ちをくり返す。コミニュケーションがヘタで、けれど孤独にも耐えられない彼らは、ケータイを手放せず、ケータイに逆に使われる私たちにそっくり。物語は、過去の事件をデータベース化する警察の資料係ダビングが、一日警察署長のアイドルとともに事件を再調査する構造を取る。誘拐か愉快かあいまいなように、物語すべてがダビングの妄想という解釈も可能だ。そもそも恋愛で本気かどうかはお互いの駆け引き。自分のキモチすらどこまで本心か自分でもわかりゃしない。本音が不確かな私たちに、伝えるべきケータイが言葉を見失うのも道理だろう。ちまたで見かける恋愛や飛び交うケータイのほとんどもまた妄想に過ぎないのかもしれない。
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