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会場
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公演日
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| 普遍化されるアイルランドの愛憎 |
西尾雅 |
ひょうご舞台芸術「ロンサム・ウエスト」(02年4月)で衝撃を与えたマクドナー作。彼の多くの作品同様、アイルランドの小島を舞台に愛と憎悪に満ちた濃い人間模様を描く。歯に衣着せぬ悪口や暴力は神や家族への信頼の裏返し。あふれる想いが、島に打ち寄せる北海の荒波のように砕け散る。パンフの略歴によれば意外にもアイルランドではなくロンドンの下町生まれ。両親の実家があるアイルランドによく帰郷するが、アイルランドを愛しつつ客観視できるのは真の故郷と違うスタンスゆえ。アイルランド特有の激しさはイングランドへの反感と愛国心、熱烈な信仰そして狭い島国の濃い人間関係に原因がある。愛情を素直に表現できず怒りや暴力に転換するねじれは、どこかつかこうへいに似る。つかも差別体験から愛を暴力に反転させる。共通するのは人間の弱さを直視するやさしさだ。
圧巻は装置と照明。完全な暗転の中、激しい雷雨の夜、ひと筋の稲光が落ちて舞台は始まる。雷と見えたのは、背景の巨大な岩の裂け目から漏れる明かり。巨岩が左右に分かれ、世界が開く。客席を荒天の海に見立て、男が海辺に打ち寄せられた聖書と赤ん坊を救い上げる。拾ったのは、まさに信仰と生命という名の奇蹟。それから始まるアイルランドの小さな島での出来事は、人類すべての幸福と不幸を象徴する。
月日は流れ、手足に障害を持つ孤児の少年ビリーが、年老いた姉妹の手で育てられている。流木のバラックに住む彼女らは、わずかな商いで生計を立てている。狭い島ゆえ気になるのは島民同士の噂話、噂と食料を物々交換する手合い(ジョニー)や、卵を届けるヘレン(絵麻緒)が店に出入りする。乱暴でストレートなものいいをする少女ヘレンを、ビリーはひそかに慕っている。
ある日、島をゆるがす大ニュースが伝わる。隣の島で映画ロケが行われ、エキストラが募集されるのだ。こぞって応募する島の面々、ビリーも漁師ボビーに肺炎で余命短いとの嘘で同情を誘い船で渡る。日頃ビリーを見くびる島民には意外な展開、ちょうど障害者の役を求める映画スタッフの目にとまり、ビリーはオーディションを受けにロンドンに向かう。ずっと島に帰って来ないビリーを心配し、育てた恩を忘れたと怒る姉妹は悶々と過ごす。
時が流れ、突然島に帰って来たビリーが告白して謝る。病気は嘘だったこと、嘘の報いか本当に肺炎に罹ったこと、そして役は障害者の演技が上手い健常者が射止め、自分は選に落ちたこと。ビリーは、自分を海岸で助けたジョニーに出生の秘密を尋ねる。嵐の夜にビリーの両親が船を漕ぎ出したのは、障害を持つ赤ん坊のビリーに保険金を治療費として残すための自殺との答に救われる。そして、自分の死期が近いと知るビリーは、勇気を絞ってヘレンをデートに誘う。最初一笑に付すヘレンは、後でこっそり返事する「誰にも見つからない夜ならＯＫ」と。大喜びするビリー、けれど願いが叶う寸前、病魔は彼を死にさらう。
あれほどおしゃべりなジョニー(たかお)が隠していた真実はビリーへの説明と異なる。ビリーの両親は赤ん坊を沈めようとして、誤って自分たちが溺れたこと。ビリーを助けた保険金なるものはジョニーがアル中の自分の母親から盗んだ金だったこと。噂を撒き散らす俗物と見えたジョニーの隠れた善行、ビリーに同情的だった漁師が騙されたと知るやビリーに加えた暴行、無心にビリーを育てるが裏切られたと思い恨みをぶつける姉妹、毒舌の裏にやさしさを隠すヘレン。その矛盾や相克は、差別の充満する島から出たいと願い、けれど都会の孤独に耐えきれず故郷に帰って来たビリーも同じ。それは小さな島の住人だけでなく、地球という小さな星に住む私たちすべてが抱える迷いの縮図なのだ。
ひとり喀血死するビリー。冒頭で落雷を描いた背景は、血塗られた十字架の朱に染まる。シルエットに浮かび上がるビリーは、人類の業を背負ったキリストのよう。背景が大きく開くと夜空の星を映す。ビリーが望み叶わなかったヘレンとのデートが天国で実現するかのように。幸せと不幸せ、やさしさと残酷を孕む現実の世界。本当と嘘はないまぜになって人を傷つけ、ときに励ます。
本来ダンサーで身体能力に長ける舘形が障害者を演じる。手足の自由を封印、ダンサーの身体を漉すことで障害者の動きを新たな美しさに置き換える。それは障害者特有の動きを美しい表現と捉える劇団熊変と一致する。劇中のビリーは障害者役を争って健常者に譲るのだが、舘形も健常者なのでビリーを悔しがらせる立場のはず。が、その悔しさを口にするビリーは、役を演じるというレベルを超えた障害者として観客の目に焼きつく。それがなせるのは、ダンサー必須のやわらかな身体以上にしなやかな舘形のハートのせいだろう。
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