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二人称の死 平加屋吉右ヱ門
 遠くに聞こえる、波の音、子供の遊ぶ声。遠くに微かに見える海。のどかな風景も、ここへ集まる患者たちにとっては彼岸の風景。時々聞こえる鈴の音も実は死の予感。

 病院の屋上。物干し竿に白いシーツがいっぱいはためいている。暖かい日差しの中、患者や看護の家族、友人、看護士たちが一時の息抜きのために上ってくる。病室内で起こる現実から少し距離を置くことで、本音と抑えていた感情が現れてくる。二十五年ぶりに再会した父とその娘(初めて会う兄弟)に兄妹は戸惑い、怒りを感じる。

「向かい合わないほうが、言葉が刺さらない」自分以外の人と接するとき、それが本当に濃密な関係にあるとき、これは偽らないところか。

 一つの命が終わろうとしているとき、一見残酷な捉えかた、接しかたが、残った者自身を守っていくための必要悪なのか。この作品は普段あえて自らの心に蓋をし、見ないようにしているもの、忘れているふりをしているものを、瘡蓋を剥ぐように思い出させる。

 今日この屋上に来ている人もそれぞれ重い病気を背負い、明日にはここへ来られなくなる予感と隣り合わせ。顔を指で触っていても自分でも気づかぬうちに宙を探っている。体から霊体が離れだし始めている。こんな中で残り少ない自分の命を生きていく。またその命をいとおしみ僅かに残された何かを探そうとする人間というものに対する熱く切ないものを感じる。


キーワード
■死
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