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見終わることのない終末 西尾雅

将来デス電所の歴史を振り返れば大きな変換点と位置づけられるだろう作品。キッカケは今年9月にここ同じ劇場でデス電所とクロムモリブデン、WI'REが組んだユニット「東京」で公演した「ドレスを着た家畜が...」にある。脚本の竹内は劇団では考えられないひとり一役固定、時空移動しないワンシチュエーションを書き上げる。本作はそれを踏襲して場所は固定、時間軸も一定。シモネタなし(鼻からウンコなど少しはあり)、ギャグも控えめ。ちなみに今までのデス電所は、ひとり数役切替で複数の時空シーンが同時進行、最後のピースがはめ込まれて全体像がようやく見えるジグソーパズル構造を持つ。完成された曼荼羅図の修羅ぶりはすさまじいが、全編に散りばめられた乾いた笑いに救われもする。が、本作は疾走感あふれる時空切替を封印して、静かな演劇ばりに間を重視、パンク、ヘビメタバンドが意外!しっとりバラードでも泣かせるのね、な展開を見せる。

散らかったワンルームに雑魚寝する男女5人。部屋主の小河原(豊田)、彼と部屋をシェアする丸尾(丸山)と珠水(田嶋)のカップル。部屋に転がり込んでいるのは丸尾の売れないコントトリオ仲間、米倉(米田)と福森(福田)。2人が住まいをなくしたのは内戦で追われたせい。どうやらここも最前線、窓を開ければキナ臭い匂いが漂う。私たちの住む世界そっくりだが、ここは招集令状がいつ舞い込んでもおかしくない戦時下の日本。

が、緊迫した外の状況を無視するかに彼らは馬鹿話に興じ、オーディションに備えて漫才のネタを合わせる。目前の戦争よりも賞金を獲得して借金を返すことが重大なのだ。窓の外の現実を受け入れるのが怖くて見て見ぬ振りをする。届いた召集令状に驚き、誤魔化し逃れようとする彼らの前に徴兵の軍隊長(山田)と補佐官(松下)が登場、戦争遂行中の彼らも真剣味に欠け、あやしさを振りまくだけ。戦争を自分に関わりないものと逃げ出す若者と知性も戦略もなく戦争を長引かせる側、両者の無責任がブラックに戯画される。

内戦は9歳の亜沙子が剥製にされごみ捨て場に置かれた殺人遺棄事件をキッカケに起こる。小学生ら低年齢層の抗議がやがて反乱となり、それ以上の世代との戦争に拡大する。実は彼女の死体発見現場がこの部屋のすぐ裏。部屋に出没しては住人にちょっかいを出す謎の少女(山村)は、成仏できない亜沙子の霊とわかる。部屋へのこだわりは、彼女の愛読書が小河原に拾われたから。少し乱暴で寂しがり、子どもの彼女はまだまだ遊びたい盛りなのだ。

死後なお剥製にされる凶行を受け、彷徨える霊となった亜沙子と戦場に赴く彼らのわずかな逢瀬。モラトリアムを享受した亜沙子はようやく成仏し、彼らは部屋から出陣する。エピローグの映像で、救いようのない世界にわずかな希望が示される。輪廻転生した亜沙子が世代間戦争を終結するとの予言。絶望を描き続けた竹内がちょっぴりハッピーエンドで締めくくる。希望は、しかし遠い彼岸に托すしかない。

目に余る部屋の乱雑さが、毎日を無為に興じる彼らを象徴する。自称コントトリオもここ数年新作を作ってない怠惰ぶり。彼らの部屋も心中も、裏のごみ捨て場と変わりないのだ。借金催促に困った丸尾が、亜沙子のいたずらで皆が気絶している隙に全員の財布から金を盗む。恋人の財布も例外ではない。彼らの愛の薄っぺらさがそこに透ける。

けれども、盗まれたことを知らずに小河原は丸尾に金と似顔絵を渡して戦場に赴く。画家志望の小河原は彼女がいることを承知で、丸尾に無償の愛を注ぐ。小河原の真情に気づき、ひとり布団の中でむせび泣く丸尾。台詞のない無言劇の静けさが、総員乱舞のダンスシーンと対極をなす。これもまたデス電所の新たな一面、核に持つピュアさが浮き上がる。

小河原と亜沙子、ピュアな2つの魂が引き寄せられる。肉体を切り裂かれ、剥製に加工される過程を回想する亜沙子は、人間の罪を一身に被るキリストの受難。肉体が穢され、ごみに混じって捨てられようと、いやそれゆえにこそ彼女の純粋さは透明度を増す。世界を救う使命とは、ごみダメのような現実、その汚泥から蓮の花を開かせること。その未来は、けれど観客の誰も見ることのない遥か未来にある。

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