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生命と心をはぐくむ蔵 西尾雅

カラビンカは不思議な劇場。梅田はエストの東端、御堂筋の幹線道路とJRの鉄道に隣接、上演中もときおり騒音に悩まされるが、それも一興。ビルの急な階段を3階まで上り、受付を済まして、さらに狭い階段を上がる。入ってしまえば、ビル屋上の増築を感じさせない居心地よさ。その劇場空間を築百年の蔵の2階に見立てる目のつけどころに感心する。

空き家紹介で田舎に越して来た水野(永瀬)。まずは母屋修復のため単身引っ越して離れの蔵2階に仮住まい。そこは夜逃げした一家の息子部屋。彼の初恋相手だった隣家のセイコ(藤里)はよく出入りしていたとか。彼女も今は出戻りの身、離婚後の実家で肩身が狭い。空家紹介のコーディネーター桃田(平田)と2人して慣れぬ水野を気遣う。桃田もまたUターンの夫にくっついての田舎になじめず、異邦人の彼が他人事ではないのだ。

水野は実は深刻な家庭問題を抱えての引越し。ひとり息子の精神症で夫婦の仲も冷え込む。それは出世した妻(吉岡)と会社の昇進試験に落ちた水野、その落差の反映でもあるのだが。仕事に追われ家庭をかえりみる余裕のない妻と、仕方なく家事をこなす夫。夫は退社し、田舎の一軒家を購入する。有機栽培の大豆で豆腐を生産する計画を語るが、夫の身勝手に妻は反発する。

ひとり奮闘する水野の元に、会社の元部下(小栗)が訪ねて来る。水野の息子と同じ摂食障害を持つ親近感が水野への恋心に発展、押しかけて来たのだ。ウワサ好きのセイコの妹(山本)が誇張して吹聴するのが、その気ない水野としては大迷惑。が、妹は真実も語る、セイコと夜逃げ一家の息子、険悪だった隣家の関係がロミジュリのように若い2人を引き裂いた悲恋を。

夜逃げ一家の息子の息子(中川)が現れ、父(つまりセイコの初恋相手)の危篤を知らせる。臨終を前に父が懐かしむ蔵を、息子はひと目見たかったのだ。初恋を引き裂かれ、好きでもない男との結婚は破たん。彼の死はセイコにとって青春の終止符。終わりがあれば、逆に再生も。水野と妻は当分別居しながらも、将来は3人一緒に暮らす方向で模索を始める。生まれ、愛し、傷つき、死ぬ人の運命。それを見続ける蔵の空気が、生命をはぐくむ母の膝枕のようにやさしい。

流星倶楽部が描く世界は懐かしく、いつもほっこり暖かい。それは生きる厳しさと裏腹。摂食障害に悩み苦しむ水野の息子や元部下、スレ違う夫婦、田舎に溶け込めない異邦人。誰もが葛藤を抱え、反発し合う。水野は、農薬を使い機械化が進む地元に逆らって監禁までされる。解決法はたぶん正直であること。本心をぶつけることで水野夫婦は危機を乗り越える。セイコが幼い愛を貫いていたなら、彼ら2人の運命も変わっていたに違いない。テーマは深刻だが、作品に暗さはない。蔵の中のゆったり懐かしい時間に身を任せる。癒しを発酵させるには、ゆっくりとした時の流れが必要なのだから。

キーワード
■家族
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