|
|
|
|
|
|
|
パフォーマー
|
|
会場
|
|
|
公演日
|
|
揺れる舞台 |
平加屋吉右ヱ門 |
大きく揺れる車内。座席や、吊革の下がる鉄パイプもうねり、波打つように歪む。通勤客は、前後左右、何度も何度も揺れる。乗客の一人が、外の景色が違うことに気がつく。窓の外は真っ暗。いつもの電車だと自分に言い聞かせ、信じようとする男。 一方、様子が変だと訴える女。行き先の違った電車。私をどこに連れて行くの。銀行もラーメン屋も同じレベルで競争時代に入っていく現代社会に先は見えない。 三つ目の川を渡ったところで、それでもいつもと変わっていないと主張する男と、なんか変だと訴える女。乗客は二人の話を聞くたびに車内を右往左往。そんな車内でも、それ程、不安に感じない女も出てくる。 始発駅に向かっているのか、終点に向かっているのか。始発電車か終電車なのか。一日が始まったのか終ってしまったのか。一週間が始まったのか週末なのか。自分を取り巻く世界を自分のこととは実感できなくなっている人々。電車は前へと進んでいるのかバックしているのかも定かでない。さっきよりは高い場所に登っているような気もするが、それは本当に上昇しているのかが確信を持てない。下がっているような気もするが、登っていく過程なのかもはっきりしない。次第にどこへ行きたいのかも分からなくなってくる。 カーボーイと呼ばれるボクサーは次の試合に敗れたら引退を約束している。99戦99引分けのボクサー。実は既に戦いは終ったあと。しかし戦った記憶すらない。試合の勝ち負けも思い出せない。何のために戦っているのかも分らなくなっている。それでも戦いの理由をでっち上げ、戦い続ける。そんな者達は、それでも留まるわけにはいかない。それでも止まる事すら許されない。 自分の事すら大事に考えられないのに、なぜ人のことが考えられるのか、と問われる女。一方自分のことしか考えられない男。どちらにしても、お腹がすいているのにもかかわらず、食べたいものが分からない。自分がここにいる様でいない。確かなもの、確信の持てるものが、何もない。 いつかこの暗闇を抜けることが出来るのだろうか。暗闇の向こう側の世界にはどのような世界があるのか。何かにすがる様に役者は叫ぶ。 今の日本の社会を、この列車の中へ、手当り次第これでもかとぶち込んだ。21世紀に入っても、常に現在の日本の行く先に不安を感じ、活動を続ける南河内万歳一座。とうとうウルトラマーケットを立上げ、歯を食いしばりながら観客に訴える一座一体となったパワー溢れる芝居に、観客の心は動く。大きくゆれる舞台は、劇場全体を観客も一緒に揺り起こす。
|
|
|
|