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多彩な演出と対照する青春の暗さ 西尾雅
ノミネート4度目にしてOMS戯曲賞大賞を射止めたごまのはえの新作。タイトルは、むろん平田オリザ「東京ノート」を踏まえる。同作が小津安二郎の映画「東京物語」を下敷きにしたのは周知の事実、いわば2重の上書きで地元枚方の青春に愛惜を捧げ、決別を告げる。変わり行く東京を哀しみつつ受け入れる先行作品のノスタルジーに敬意を払いつつ、リージョナルな京都の地から新たな感性を発信する。

朗読、群読、パフォーマンス、芝居、映像をミックスした演出。カラフルだが濁った色の曲線がうねる床、正面奥には団地サイズの各号室の金属扉、左手に団地1階のコンクリ階段。冒頭は枚方香里園の団地風景のモノクロ映像、郷愁と後悔が混じる過去が立ち上がる。出番以外上演中もコロスと朗読者は舞台左右に座って待機、物語に寄り添う。振り返りあらためて知る時の痛み、その負を背負うかのように。

朗読に合わせひとりの人物を、複数がマイムで演じる無言劇が不安をあおる。震えさざめきリフレインするは良心の咎めか。ときに座ってアカペラの音効に加わるコロスは、水や風の音を唇で響かせリズムを刻む。中央の舞台で役者が台詞を発し芝居を演じる。映像や朗読を背景に借りる彼らは、操り人形の影絵にも見える。操る糸は失われた時間、忘れたい記憶そのどちらだろうか。

高校男子生徒と同級生のその後、交通事故に遭った少女の死亡直後、老人と少女の出会い。3つの物語が平行、交錯して生と死、男と女の性、流れ行く時の無常と消せない人の無念を描く。野球部出場に駆り出されたパネル応援組の高校生のボヤキ。猛暑の下、指示する先生も大変だが、当然やる気ない彼らの会話は将来の不安や異性の興味に終始する。卒業後の同窓会では、大学でナンパに明け暮れる友人がうらやましい浪人の信夫。信夫はフリーターとなり、再会した先生に専門学校を薦められるが長続きせず、やがて家に引きこもる。

団地内で交通事故死した少女。即死にもかかわらず、ゾンビのように死体は動き、公園のベンチをめざす。事故に気づき、部屋から階段を駆け下り娘の元へ急ぐ母親。出血し内臓はみ出す歩く死体を取り巻く野次馬。団地の日常を切り裂くシュールな白日夢。最も醜悪なのは、団地建設に用地提供し市議会議員に立候補する地主。時代錯誤の持論を演説する姿が毒々しい。別次元で老人と少女がまみえる。世界は滅び、残された彼ら2人。口説く老人は少女を襲い、激しい抵抗にあう。

後の2つのエピソードは短時間の出来事。時系列で長い信夫の挿話があくまでメイン。信夫の奥底に渦巻く性の渇望、暗い情念は、友人の製作するAVビデオの明るさと対照的。歩く死体となった少女はベンチにたどり着き、最期を迎える。ベンチで信夫と語る少女の姿が団地住人に目撃される。恋人ではなかった2人だが、団地住人には仲の良いカップルと映る。

ひとり娘を亡くして夫婦の仲は冷え、娘の身代わりに飼った金魚を部屋に残し団地を去る。朗読やコロスで語られる存在に過ぎなかった少女が、大詰で老人のレイプを拒否する少女にすりかわる。すべてはひとりの少女にまつわる話、3つの挿話はここに収斂。身代わりの金魚も少女の生まれ変わり、動く死体同様、夢幻の物語に救いと願い、失ってようやく味わう後悔がこめられる。

性の葛藤は青春特有の悩みではなく、60歳代の夫が自分の妻に親しげに話しかけた同世代の男性とトラブルになり放火殺人に発展した事件も報じられている。老人介護ホームで嫉妬がらみの修羅場はざら。男女が一生抱える性の渇望を本作はさらけ出す。金魚の朱い色が欲望の犠牲、その痛ましさを象徴する。

キーワード
■性
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