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混在する世界 西尾雅
モダニズムの粋を集めたレトロな建物内のホールは、陽だまりのぬくもりに包まれ、忘れていた時間が澱のように敷きつめられている。ひなびた匂いが漂うあたり一面に古い日記をそっとめくる郷愁が満ちる。やわらかな光と影で織り成す物語は今と昔を揺らし、時の営みのはかなさとせつなさを訴える。さざなみのように蘇る記憶のもたらす甘美と苦み。慟哭を抑えつつ、人はそれを力にさらに生きてゆかねばならない。

通常使用とは逆にホール奥側がひな段客席、上演中は入口側が舞台となる。円形の台左右に引き出し棚、テーブル椅子、ハンガー、帽子掛けやトランク、木製キリンなどが積み重なる。おもちゃ箱をひっくり返したような賑わいと昔懐かしい百貨店の売り場がごちゃ混ぜ。入口をエレベータ扉に見立てるアイディアに驚く。暗転し扉右側の階数表示ランプが点滅すれば、本物のエレベータが動いているかのよう。クライマックスで階数表示がホール2階フロアに伸びれば、物語に同化してエレベータはまさに月まで届くかと思わされる。

スランプに陥り書けなくなった作家を励ます担当編集者。劇中劇で演じられるのは主人公の少年の冒険譚。いっぽうレトロな百貨店でくり広げられる光景。忙しい店員と買い物を楽しむ客とのやりとり。ここはまだよそ行き、あこがれのテーマパークだった頃のデパートメントストア。洋服や雑貨あふれる夢のワンダーランドが少年のワクワク冒険行と重なる。けれど、作家は挫折、少年は難破。人類は月面着陸を果たすが、その現実は月に託した人の夢を砕く。

夕焼けに家路を急いだ幼い娘も成長し、母に連れられて百貨店でお買い物。大人の仲間入りした彼女はやがて恋をし、プレゼント選びに夢中になる。が、死が彼女を襲う。笑顔でショッピングする彼女は実は死んでおり、作家のスランプも恋人の死が原因とわかる。が、彼女の肉体は滅んでも魂はエレベータに乗り、月に届く。

ユリイカの舞台では生きている者も死者も劇中の登場人物も区別はない。過去と現在、現実と夢が大理石模様に混在する。色とりどりのビー玉にも似たエピソードのひとつひとつ。それを一枚のタペストリーに綴り織れば、胸締めつけられる全貌が見えてくる。職人仕事で手間暇かけた電飾や装置、ていねいに創られた各場面。解き明かされた物語は哀しみを湛えてはいるが、同時に勇気も与えてくれる。ひと粒ひと粒の思い出と夢が、宝石をはるか上回る輝きを放つゆえに。

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