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会場
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公演日
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仮設の不便に真っ向勝負のダイナミズム演出 |
西尾雅 |
仮設劇場WAの本公演2番手。オープニング企画のドラマリーディング「ー劇場へ!!」でWAを初体験、透明チューブで囲まれた円形スペースとそれを収容する巨大倉庫に違和感を抱く。身長約2倍の高さのチューブを並べ、隙間どこからも出入り自由、コンクリ床はまっ平らで演技スペースと客席の区別なしという使い手まかせのコンセプトには賛同。が、天井がなく音や光も遮断できないことから倉庫内に建設を余儀なくされる。柱4本がWA内に立ちはだかる様は、OMSにオマージュ捧げるかのよう。不便は他にも。海遊館やサントリーミュージアムを望む大阪港は、劇場という異世界へ旅立つにふさわしい舞台だが、入港する船の汽笛が台詞を遮る。青天井で360度出入り自由な舞台が目的なら、たとえば路上に丸く線を引いて観客との距離を図るギリヤーク尼ケ崎の方がはるかにシンプルで前衛的だろう。倉庫内の建設で天候に左右されなくなるが、柱や残響など新たな問題も発生、円く開かれた自由という当初のもくろみも倉庫の圧迫感で損なわれる。前回「ー劇場へ!!」で抱いた劇場に対する不信は解消されないが、欠点を逆手に取るごまのはえの演出、その力ワザに興奮する。OMS戯曲賞大賞受賞で脚本の評価高いが、アンサンブルを駆使する演出力や役者としての特異さが注目されていい。1年後を想定した近未来サスペンスというより、佐渡ケ島を仮想舞台としたシチュエーション現代活劇。北朝鮮のミサイル攻撃で首都崩壊し、統制なくした現実の日本を笑いと毒で風刺する。といっても批判臭は薄く、生活感に満ちた波乱万丈エンタメ。政府なくし混乱する地方自治体に勤める兄と恋人に振られストーカーに迫られる妹一家が主人公の家庭劇でもある。北朝鮮工作員との乱闘や音楽・振付を取り入れた野外劇テイストでつかみも十分。影落とす戦前の軍国主義が物語に厚みを出す。過去を遡れば現代日本の平和がいかにあやういか透ける。軍の特殊研究所に勤めていた叔父が、姪に人体実験を施し、人間核兵器に仕立てる。が、それだけでは核として機能しない。彼女ひとりに押しつけられた祖母の介護、性病を移してさっさと逃げ出す元カレ。理不尽な仕打ちに耐え、不満を重ねることで兵器に成長し、臨界に達する。彼女の秘密を知った敵味方の混乱がブラックな笑いを生む。人間核兵器という荒唐無稽に正直苦笑するが、勢いが疑問を挟ませず、ガマンを積み重ねれば怒り爆発の構図は大いにうなずける。社会で人はけっして平等ではなく、拒めない者にイヤな仕事が押しつけられる。不満や孤独は核に匹敵するエネルギーとの指摘は正しい。ごまのはえはいつも弱者にやさしい。ちなみに彼自身が演じるのは、認知症の祖母と知的障害の少年。常識ハズレの彼らの行動はおかしくも哀しい。祖母の介護を押しつけられる妹が怒りをひそかに家族にぶつけるシーンに、虐げられた者への深い同情と感動がある。やさしさは痛みを知るからこそ。ごまのはえというペンネーム(芸名)にも反骨がにじむ。今回は外周に客を座らせ、中央を演技スペースに取る。例の柱をつけ打ちに使うなど工夫。爆発炎上する赤の照明がチューブに連続反射して映える。大人数の出演者の出入りはスピーディ、場転の素早さに舌を巻く。ただ、朗読で状況説明するのはズルイ。
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