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反転を続ける映像ライブ感 西尾雅
クロムモリブデン(以下クロム)はいつだって演劇を超えるポスト演劇に本気で取り組む。かつて劇場客席に振動を与えて音響を体感させ、舞台をビジュアルアートのインスタレーション展と化し、豪華な生写真を無料パンフに添付したこともあった。が、最近は額縁舞台にこだわって演劇を仮装しながら屈折をさらに進化させる。派手さを控えた禁欲的な姿勢が、逆に先鋭のスタイルを際立たせる。暴力と美が反転するネガ/ポジの巻き込まれればその渦に抗しきれるものではない。

ジャンケン負ければハリセンで叩かれるペア。ゲームは男が必ず勝ち、負けた女は洗面器で防ぐのみ。同じようなペアが都合4組、ナイフをちらつかせる男にフライパンで抵抗する女、剣道着姿で竹刀を握る男と面をつける男。カメラマンには少女モデル。攻め具と防具を持つ両者に分かれてゲーム感覚の勝負が続く。役者はひとり数役をこなし、素早く着替えてカットバックを積み重ねる。実際の映像を挿入したこともあるクロムだが、スタイルそのものを映像感覚で仕上げる。客演3人が劇団員と違和感ないアンサンブルをこなして加わる。

最初はハテナマーク飛ぶ不思議世界を、ガジェット感覚の照明看板や浄瑠璃・落語など和テイストの音効まで繰り出しての緩急演出でサスペンス引っ張り、謎解きに持ち込む。近未来、児童虐待や幼児性犯罪などを犯した者は、出所後もチップが体内に埋め込まれ居場所を特定される。罪を犯し更正した男がチップ除去を条件に、新たな犯罪者と対決する。「羊たちの沈黙」「ハンニバル」「バトルロワイヤル」など先達の映画にオマージュを捧げ、犯罪が隠蔽され、なくなることがない現実を突く。

しだいに男が女をハリセンするジャンケンペアが父娘間の虐待であり、剣道着のシナイとメンの男2人も母親が家出した父息子間の家庭内イジメとわかる。ゲーム感覚のこっけいさが、リアルな暴力にすり替った瞬間は背筋が凍る。クロムの真骨頂は皮肉の裏側に隠された本音のシュールさ。美男美女ながら逆ギレ演技で観客を震えあがらせる役者がハイテンションでそれを支える。

出所後も疑われ続ける前科者は、果たして被害者なのか再犯を警戒すべき要注意人物なのか。再犯より新たに犯罪を犯す初心者の方がずっと多いともいう。誰もが潜在的な犯罪の欲望を抱えるならそれも正論には違いない。虐待が次の虐待を育てる負の連鎖、前科者を白い目で見る世間が更正を妨げる現実。暴力の再生産は見えないまま至るところで進行している。

モデル(重実百合)の少女は既に殺され、変質者カメラ(森下亮)は次の獲物フライパン(金沢涼恵)を追いつめる。実の娘の危機を知るが何も出来ないハリセン(板倉チヒロ)や職場である前科者監視センターでは窓際族のシナイ(板橋薔薇之介)の父親2人の無能あわてようがおかしい。ふだんイジメる側のイザという時の頼りなさ、自分より強い者にからきし弱い点を鋭く皮肉る。イジメや虐待は突きつめれば大いなる負の玉突きに過ぎない。

更生中の前科者メン(信国輝彦)が犯人に立ち向かうが不意を突かれ、結局犯人を倒すのは誘拐された少女のフライパンの一撃。防具を攻め具に切り替えた捨て身の反撃が功を奏す。矛と盾の華麗な逆転。思えばジャンケンの勝ち負けは相手とこちらの出し方しだい。パーはグーに勝つがチョキには負ける。防具と攻め具の境界は実はなく、とすれば誰もが凶器を手にしていることになる。内なる狂気もまた同様に...。

犯人逮捕のハッピーエンドは、再度ひっくり返される。殺されたはずの少女が生き返るのも演劇のお約束なら、犯人が死なず復讐に立ち上がる第2章もまたパターン。けっしてなくならない虐待の連鎖をそこに象徴する。

劇中で剣道の突きの危険が指摘される。防具を着けた稽古では普通生命に別状はないが、喉を突けぱ呼吸停止に陥ると突きを戒める。が、役者全員揃って客席に向かい竹刀を突き、幕が閉じる。幼児誘拐、性的虐待、家庭内暴力など不条理はびこる世界へそれが唯一の防御とでもいうかのように。クロムはいつだって世の中を笑い飛ばしエンタメしつつも、抗議を止めることはけっしてない。

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