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寒空を吹き飛ばす想いの熱さ 西尾雅
野外劇の盛んな大阪の中でも独特の体臭を放つ犯罪友の会。小難しい理屈は一切抜き、回想や時空転換で惑わすこともなく、時間軸に沿って謎がほぐれる王道のサスペンス展開。ケレンを使った派手な演出が、大衆演劇や座長芝居のテイストをほうふつさせる。底に流れるは鋭い現代批評と市井の民への暖かい眼差し。時流に乗る権力者の驕りと流れに抗すべくもない庶民の苦しみが対比される。虐げられし者の唯一の救いは、いつの時代にあってもひたむきな愛。けれど、小賢しい知恵や思い余った愛はときに愚かさに堕す。それもまた人の業とはいえ、恋人を傷つけずにおれない女心の悲しさとそれを迫る権力への怒りに胸が締めつけられる。

今年で4年目、難波宮跡公園に建て込まれた野外舞台の美術の緻密さはますます増す。明治維新直後を描いた十手お糸シリーズ3部作を昨年で終え、時代は日清戦争中に飛ぶ。観客席を含む舞台平面の配置は前作と同じだが建物を一新。正面の不動明王堂や奥の芸者揚屋そして上手の床屋までをリアルに設える。遠近法を利用した舞台装置は実物を縮小しながら立体感と奥行きで、現実以上の迫力に富む。揚屋の2階部分は暗い夜空に浮かび、灯篭など細部も凝った出来。さながらテーマパークの完成度で時代感をにじます。野外ならではの火薬や花火を用いたケレンも観客を沸かす。

明治の再現を懐古趣味に終わらせず、現代にリンクさせて過去の警告とする。平成と年号が変われど変わらぬ人の愚かさや優しさをいとおしみ、この国が再び繰り返さぬとも限らぬ過ちを憂える。日清戦争当時を背景にするは、明らかに領海や歴史観で緊張を増す日中関係を念頭に置いてのこと。戦争や鉄道敷設で儲ける新興財閥をIT関連長者になぞらえ、利権にうまく立ち回って徴兵を逃れたり懐を潤す者と貧乏くじを引く大衆を対比する。身寄りないゆえ身代わりに戦場に駆り出される昆布問屋の丁稚が庶民の不幸を象徴する。

徴兵を機に彼女にも振られて彼はダブルピンチ。プレゼントするはずの櫛も貰い手をなくし宙に浮く。が、元カノに渡すはずの櫛をお不動さんで落してしまい、一緒に探し出し拾ってくれた女に譲ることになる。女は揚屋でも手に負えない悪女郎。が、それは本性を見せない頑なな女心、実は三味線の名手でもある彼女は弾けることすら店では隠す。偶然から本当の恋が生まれる。身体は売るとも三味線の音を聞かすは愛した男だけと女は操を立てる。男は彼女の弾く三味線を思い出に出征を決意するが、三味線の糸が切れたことで戦死を予感した彼女は恋人の耳をそぎ、障害者にして徴兵忌避をねらう。

例の櫛は、彼が昆布買付けに訪れた北海道で、屯田兵を志願するも彼の地で失敗した没落士族の妻が手放したもの。櫛を見た髪結屋の主人は、初恋の女に自分が贈った品と気づく。下級武士出の彼は、保守的な親の考えや明治の世になじめず髪結の道に進んで勘当された身。が、元カノの窮状を知るや髪結の店も畳み、北海道へ出立する決意を固める。

櫛が紡ぐ2組の恋人の不幸。出会いを招き、そして不幸もまた呼び寄せる2重のカラクリ。少し前まで武士と威張った者も時代の流れに零落する。戦争成金にもバブルはじけ、落ちぶれる日がいつかは来よう。栄枯盛衰こそ世の習い、過去を振り返れば明治が平成を逆照射する様がよく見える。モノに過ぎない櫛が、モノに託したヒトの情で出会いという奇蹟を産む。ヒトをモノのごとく扱いカネで動かそうとする権力者の驕りは、三味線に本音を捧げた女の意地に敗退する。

野外ならではハンディは近くの高速道路の振動が響くこと。が、独特のゆっくりした間、朴訥な言い回しは騒音を持ちこたえて夜の闇を貫き、心に沁みる。まるでヒトの想いは、寒空の冷気すら吹き払うとでもいうように。役者の身体ひとりひとりからそれだけの熱い情が放射されている。

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