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日本総関西人化計画始動の証明 西尾雅
前身これっきりハイテンションシアター(以下KHT)での初演は10年前、オレンジルーム(現HEP HALL)やOMS公演を経て満を持しての近鉄小劇場。が、運悪く阪神淡路大震災直後と重なって空席も目立ち、盛り上がるはずの合戦シーンにも隙間風が吹く。首藤健祐や山本忠、西村恵一を擁し、日活JOEも常に出演していた当時のKHTは、ハードボイルドを標榜するにふさわしい男くさい劇団。そして男優を取り巻く女優陣もヒロイン弁天ひろみ、巨乳の宮野純子、トンデモ系のキューピー鈴木、アイドル系のマリリン門野と個性豊か。

が、10年を隔てた再演に続投するのはえん魔以外に美津乃あわだけ。若手女優のひとりに過ぎなかった美津乃が今やファントマに欠かせない主役。今回はサイボーグ(砕武具)処理された侍の男っぶりが凛々しく孤高。ラブシーンが苦手と白状するえん魔だが、女性同士で演じることで生々しさが薄れしっとりとした情感をかもし出す。素朴で純な味わいがギャグのこってり感と対照して逆に印象に残る。

戦場でいったん死んだ侍がサイボーグとなって再生し、かつての味方のためではなく亡き妻に似たひとりの女のために戦うというモチーフはありがち。実際ファントマのすべての作品に下敷きとなる映画、コミック等の先行作品がある。が、事件や他の作家からアイディアを得たのはシェイクスピアや近松も事情は同じ。踏襲や模倣を恐れずどう自分の色に染め上げるかが問題ならば、舞台という制約でエンタメに徹するえん魔は一級と言える。

11日間15ステージのロングランは先日のHEP HALLプロデュース「夏の夜の夢」に匹敵するが、エンタメゆえ例によって劇評の対象外。今をときめく新感線もある時期まで演劇賞の対象にもならなかったが、商業的な成功を経るや手のひら返したような賞賛ぶり。が、金を払う観客はおもしろい作品を自然と嗅ぎつける。集客力はもっと評価されるべき。むろん、観客数に恵まれず真面目に取り組む劇団を紹介するのも劇評の務めではあるが。

戦国時代を背景にしたサイボーグ侍の純愛と悲哀は「サイボーグ009」や「戦国自衛隊」を思い出させ、左腕に仕込まれた銃は「COBRA」のサイコガンをほうふつさせる。編み笠被った侍がひとりで多勢を相手にする、好きな女を救い出すために。映画や劇画でおなじみの荒唐無稽時代SFをどれだけ生身の舞台でやってのけるか。取り立ててオリジナリティがあるわけではない。どこかで聞いたお話をないまぜにハラハラドキドキの展開、むろんお笑いも忘れずのエンタメ王道。それを目の前で演じて見せる立体紙芝居が唯一の強みと言える。

ギャグは切れ味鋭いわけでもなく、ベタでゆるゆる。芝居を止める必然性があるとも思えない。それは、けれどすべてえん魔のテレ。カッコいいだけの男は嘘くさい。男気を正面きって訴えても柄じゃない。こうありたい男のハードボイルドな志をあえてギャグにまぶすお馬鹿ぶりに好感を抱く。それは関西の風土が生んだものに違いない。ファントマが今や東京でも受けるのは、馬鹿を演じることがコミュニケーションのテク、人づき合いのクッションとして東京でも認知された証。そう、時代は総関西人化へと進んでいる、ファントマは堂々その旗艦なのだ。

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