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スリリングなリーディング 西尾雅
ドラマ・リーディングはただの読み合わせではないことを、岩崎正裕の演出は再確認させてくれる。キャストが机上の戯曲を読み交わすだけのリーディングもむろんありだが、アイホールの可変機構を生かし劇場床に段差を設けたシンプルな舞台で、戯曲を手にキャストはここでは自然にふるまう。椅子から立ち上がったり、しゃがみこんだり、手を触れ合ったり、小道具のスコップを使いさえする。照明の明暗でアクセントをつけ、音響は他の受刑者のざわめきを絞ってキャストの会話に集中させる。刑務所の面会室が主な舞台だが刑務所内部や回想も織り込まれ、2時間超える上演時間を緩急つけてあきさせない。

登場わずか4人。殺人罪で終身刑を受け、服役中のフェイ(内田淳子)に面会人ジョージー(奥田ワレタ)が訪れる。弁護士を除けば初めての面会人に看守すらとまどうが、実の娘と聞けば驚きはなおのこと。長く海外にいて母親の服役を知らなかったと娘は弁解。母と娘が引き離された事情や、フェイが誰をなぜ殺したのか。観客にも事情が明らかにされるにつれ、彼女たちの心も解きほぐれていく。

最初は娘との面会を拒むフェイ。母親は自分から連絡を取らないまま。父方の祖母に育てられたジョージーは父を覚えておらず、過去を知りたいと願う。母娘は面会を重ねてしだいに打ち解けるが、母の頑なさは変わらず、事件の核心には口をつむぐ。実はフェイが殺したのは自分の夫、つまりジョージーの父。フェイは殺人のいきさつや動機を裁判でも一切語らず心を閉ざしたまま。アイアンというタイトルは刑務所の鉄格子と、彼女の固い意思を指す。

接触すら厳禁の面会室でフェイはジョージーからドラッグを入手する。貴重品を他の囚人に密売すれば刑務所内で優位に立つ。娘に危険を冒させてでも。看守の目を盗むスリリングな動きはリーディングを超える。不法行為は発覚し、フェイは面会禁止の懲罰を受けるが、ハンストで対抗して面会に持ち込む。

力関係は刻々と変化する。母娘や看守、受刑者を問わない駆け引きが展開される。女性看守(山村涼子)はかつてフェイに同情し利用されたゆえ彼女を警戒する。出産直後に夫に逃げられた看守や不倫で傷ついた娘を慰めるのがフェイは得意。女の痛みを察知できるのはフェイ自身も深く傷ついた過去を持つからに他ならない。

初めてフェイが告白する。夫への愛を語るフェイの表情が輝く。出会いやデートを楽しそうに娘に打ち明ける。けれど、しだいに家を開けるようになった夫に淋しさが募り、耐えられなくなった彼女は夫を刺す。激情を解放した一瞬の喜びの後に来るのは長くそして深い孤独。それは鉄格子に囲まれた刑務所より冷たい世界なのだ。

ジョージーは父の死の現場にいたことを思い出す。封印された過去から彼女は解放される。告白を最後にフェイは面会を打ち切り、再び閉じこもる。看守は彼女が自殺に用いるだろう石を房内へ持込むことを許す。彼女にできるたったひとつのやさしさゆえに。

妻が夫を殺害した場合は罪が重いという男性看守(川下大洋)の指摘が印象的。かつての日本でも尊属殺人は重罪。身分や男女差で罪の軽重が決定される矛盾。差別される側の女性同士が傷つけあう悲しさも本作で浮き彫りになる。女性看守はフェイに自分を映す、私も夫を殺したかもしれないと。フェイの過ちは特殊ではない。まっすぐな愛と憎しみの衝動は表裏一体の両刃なのだ。

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