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さりげなく祝う10周年 西尾雅
結成10周年記念公演も気負いがない。売込隊ビームという劇団名を「ストレート過ぎ」と受け取る向きもあり、誤解も生じやすいが(かつて立原啓裕、牧野恵美、升毅の3人からなるずばり「売名行為」というユニットもあった)、まっ正直な演劇参入宣言こそ座長の山田かつろうらしい強がり、そしてテレの裏返し。名は体を表すとか、命名の妙にあらためて感心する。

大阪芸大系の劇団だが、先輩の南河内万歳一座がスポーツ紙並にはったりを利かせ、新感線が商業演劇化へひた走るのとは大きな世代間の差があり、日常を皮肉と軽い毒でくるむ等身大の目線を最大の魅力とする。

10年間で作風や劇団員の構成(石川愛の休団、元TANTRYTHMの菊池秀之の入団・休止はあったが)にほとんど変化がなく、堅実にペースを刻む。10周年を淡々と迎えた彼らは、今後の10年も今とさほど変わらずに舞台を続けることだろう。

客演に呼ばれる劇団員の多いことが特長。とりわけ三谷恭子と梅本真里恵はひっぱりだこ、チラシの束に彼女らの名を見かけぬ日はない。2人の共通点は小柄な体躯と引き出しの多さ。少女やキャリアウーマンは言うに及ばず、男役から子役、年増まであらゆる役をこなす。三谷のワガママな妖精や梅本の冒険の旅に出る子犬など人にあらざる者も絶品。

華のある役者集団として重宝されるが、劇団公演は派手さもなくいたってシンプル。とうぜん役者のキャラを生かした群像劇の様相を呈するが、座付作家からあてられた役を役者がどう消化するかいつも楽しみ。今回はシャリッと和装を着こなした小山茜や、お似合いのメイドコスプレと裏腹な欲得ずくの梅本が光る。客演の使い方も上手い。いい人だが神経質で自分勝手なカレシの尾方宣久(MONO)、男勝りな管理人の岡部尚子(元ランニングシアターダッシュ)は、まさにハマリ役。

ジリ貧劇団の起死回生のアイディアは、人里離れた山中の山小屋を合宿所兼稽古場兼ネット配信の劇場にすること。が、退団者は止まず、作・演出家兼座長の筆も進まず、ネットどころか電話すらないのが現状。水の確保も難儀、食料買出しにスタッフは山を降りねばならない。その山奥に病人を抱えた登山パーティが助けを求めて訪れる。さらに借金取りまでが現われて、山小屋内はてんやわんやの騒ぎとなる。

話は大きく2つのエピソードからなる。ひとつは万年金欠の劇団運営、もうひとつは長い春(10周年)にとまどう倦怠期カップル。山小屋を借りられたのは、宝くじ当選したラッキーな新入り(太田清伸)のおかげ。金目当てミエミエの女優(梅本)は早速彼に擦り寄り、劇団内の人間関係は微妙に変化。辺鄙な山小屋に現われた借金取りは実は狂言。サラ金返済に困る座長(山田かつろう)が、知り合いの劇団員(小山、杉森大祐)を借金取りに仕立てた詐欺とわかる。が、ジャンボ1等当選は皆の早飲み込み、当たったのはわずか100万円だけ、訂正を言い出せなかった新入りの弱気がオチとなる。

いっぽうの登山パーティ。幻の高山植物(花)入手が目的の登山を企画したのは倦怠期カップルのカレシ(尾方)。もはや水と空気のような間柄の彼女(三谷)にあらためて愛を告白しようと決意、証として愛が成就するという伝説の花プレゼントを試みる。崖下に咲く花をようやく見つけ、手を伸ばすが叶わず遭難。面と向かって彼女にやさしい言葉をかけるでもなく、いたわるでもない彼の死を賭した行為に想いの深さがにじむ。

現実に必要な金と精神を支える愛が対比して描かれる。相手を騙し騙される借金狂想曲は茶化されて喜劇となり、愛の寓話はせつない悲劇に終わる。人はこっけいとシリアスのどちらをも持ち、どちらのバランスが欠けても生きていけない。劇団がさらに成長するには、人が長く生きるには、たぶん金と愛の両方が必要。両方を合わせ持ち、そのバランスが大事という、これは10周年を無事祝う劇団からの引き出物、ありがたい教訓なのだ。

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