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大日本演劇大系 松岡永子
第一夜 序の章「明月記」第二夜 番外「独戯」第三夜 第五章「大阪物語revision-2」 三夜連続、といってもひとつひとつの独立した作品。通してみていると聞こえてくる通奏低音は、あえていえば「物語の殺人(?)」か。殺したい相手は物語だ。
 ある時代の芝居の作り方を徹底して貫いた舞台。王道だ、と思う。今みると新鮮ですらある。変わらないまま磨き上げられたものはこんな風に結晶化するものなのかと思う。純度が高く密度が高くちょっとやそっとでは歯が立たない。さまざまに織りなされたいくつものテキストの乱反射に目が眩む。
 その複雑でてごわい戯曲を役者の力で現前させる。頼れるのは自分の身ひとつ。ゆるめば一気に空中分解してしまう。これは役者を孤独にする舞台、とんでもない緊張を強いる舞台だ。それをやってのける役者の力量に圧倒される。絡まり合った各シーンはそれぞれにうつくしく、歌謡曲(J-POPではない)もビートルズも懐かしく新しく響く(沢田健二がこんなにいいとは知らなかった。リアルタイムで聞いていた頃、わたしはまだまだ子どもだったのだろう)。

 第一夜。近松の『卯月の紅葉』や『曽根崎心中』を引きながら語られるのは無理心中を図って子どもを殺してしまった女の話か。第二夜。チャップリンの『独裁者』や坂田三吉『王将物語』を引きながら語られるのは女房に逃げられたことを病気で実家に帰ったと言い繕ってきた男の話、だろうか。しかし、何が虚構で何が事実か、何が幻で何が現なのかを分別して語るような物語ではない。部分の美しさの響きが全体を作り上げる、詩に似た構成の舞台はあらすじを語っても仕方がないし、語れない。
 いずれにしても、ゴトーさんは今夜もやってこない。

 第三夜で引用される内ゲバ私刑の光景(出典はわたしには不明)。アイスピックを心臓に突き立て延髄に突き刺しても絶命しない。首を締め上げてなお息が残る。とどめを刺すことは一般に物語られるほど容易なことではないのだろう。物語にとどめを刺すこともやはり難しいようだ。不条理劇の古典「ゴドーを待ちながら」は永遠に延期された結末を語る。そう簡単には死なないし死ねないのだ。
 死ぬ覚悟ならとっくにできていた。それがどんなに惨めな死に方だとしても。けれどもこんなに生きつづけることになるとは想像もしていなかった。生きつづける姿、七転八倒悪戦苦闘は少しも格好良くはない。しかし実に感動的だ。

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