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壮大でち密、楽しさあふれる演劇パズル |
西尾雅 |
劇団名を世界一団からsundayに改めての再出発第1弾。結成10周年を迎えた節目の2004年「不思議な森のチュチュ」でいったん休団、個人活動やinterludeと称する実験的な公演を経て本作で再始動。かつてのメンバーで今回出演しないのは、希ノボリコと工藤丈徳。2人を除くメンバーが再結集したのみならず豪華な客演陣を招いて、HEP HALL全16ステージのロングランをこなす。世界一団は、びっくり箱や遊園地にたとえられたが、私なら看板役者の平林之英のハマリ役・辣腕弁護士の大好物だったサクマ製菓のドロップがふさわしく思える。缶の穴から飛び出すドロップの次は何色か期待で胸はいっぱい。カラフルでフルーティなドロップは、目と舌に元気をくれる魔法の玉。甘酸っぱくときに刺激的なハッカ味、それが大人になりきれない今どきの観客に好評を博す。今回の新作は舞台を嘘で彩る。「四月のさかな」はエイプリルフールの意。つまり、ついてもいい嘘。演劇そのものが現実に対する虚構といえるが、見えるものが真実とは限らない。人が善人か悪人か見かけで判断はできないし、男か女かも本当はあいまい。見えないはずの神や死者が演劇ではしばしば登場するが、では現実に見えているものは本当に真実か疑問も起こる。虚実反転する壮大なトリックを、新生sundayは生の芝居で仕掛ける。いわば全編がすべて巨大な騙し絵。舞台という虚構の上に、さらに嘘を塗りこめる。リアルに造りこまれた上手の日本家屋にも、抜け穴や秘密がいっぱい。畳を跳ね上げた床下は人をかくまう隠れ場所となり、幻想シーンが湧き出す穴ともなる。2階の窓から1階の屋根(中は風呂場)を伝って出入りする際、ハシゴが大活躍。下手の庭では本物の砂が使われ、掘り抜かれた穴に役者が埋められる。ビル内の劇場でそこまでやるかのライブ感は得意の生演奏でも顕著、並べた植木鉢を木琴代わりに弾き、砂嵐ノイズのサンプリングがTVモニターでスイッチングされる。歌舞伎で黒衣が蝋燭をかざすように、役者が懐中電灯を使って照明を担当し、懐中電灯の細い光を放つ集団が焦燥感をあおる。蛍光発色するスニーカーを手にしたアンサンブルが走る様は海中で魚が群れて泳ぐかのよう。嵐のシーンでは、役者が持ち上げる障子や自転車が空を飛び、幻想シーンでは人が担ぎ上げられて浮遊する。生の舞台でどれだけのアイディアを尽くすか、演劇の枠を破る壮大な実験が試みられる。実験劇に終わらないエンタメへのこだわり、ポップな感覚がsundayの真骨頂。ギリシャ悲劇の「デウス・エクス・マキナ」(機械仕掛けの神)にならったどんでん返しも取り入れられるが、唐突感が免れない古典に比べ、本作は救いとせつなさに余韻がある。海辺の一軒家に、両親を早くに亡くした若い男・ニイ(赤星マサノリ)がひとり住む。彼は、行方不明になった幼い妹の帰りを待ち続けるが、海で溺れたであろう妹の帰るはずもなく、妹の面影を宿す迷子の少女に出会って、つい連れて帰ってしまう。家にはニイの同級生である居候(小松利昌)が住み着き、小銭をくすねるのみならず、カノジョ(椎原小百合)を引っ張り込んでは昼間からエッチ。おとなしいニイは強く抗議もできず、それどころか少女を使った誘拐監禁と身代金強奪を手伝わされる。実は少女は記憶を失くし身元も不詳。それにもかかわらず、偶然仲間に引き込んだ男(西田政彦)に指示されるまま、3人は警察に押しかける。少女(松尾葵)の髪は恐怖に出会ったかのようにまっ白。あるいは長い時を海で過ごし、この世界に戻った浦島太郎に似た経験をしたのかもしれない。彼女の目には、休暇をこの家の庭でくつろぐ神様や畑を荒らすイタズラ男が見えている。アロハを着た神様(年清由香)とイタズラを見咎められ砂に埋められる情けない男(井田武志)は、地元ラジオ局のDJも担当。その正体は、どうやら絶対神と下級の動物霊(あるいは地元の氏神)らしい。少女は、人ならざる者と人の境界にあって両者をつないでいる。少女はニイを兄のように慕うが(ニイと名づけたのは他ならぬ少女)、郵便配達人(金替康博)が彼女に片思いの恋情を抱く。手紙の想いを届けるのが仕事の彼が、自分の想いを伝えられないもどかしさが可笑しい。いっぽう、刑務所を脱獄した2人組(平林、坂口修一)が留守に乗じて家捜しに訪れる。受刑者仲間から、この家に大金を隠したと聞いてありかを探りに来たのだ。2人は同性愛のクリスチャン。信仰と犯罪、性差の反転、ここにも皮肉が利いている。村おこしをでっち上げて寄付をせびる役員(黒木陽子)や、視覚障害者なのにすべてお見通しの隣家の婦人とマリファナ幻覚の際に現われる宇宙人(安元美帆子と吉陸アキコがWキャストで2役を演じる)まで、登場人物は多彩。つまり群像劇でもあるのだが、個性の強いキャラとファンタジーの濃さ、ち密な伏線で立体ジグソーパズルがハメこまれるラストに向かう。その夜襲った嵐に倒れるように、白黒が次々反転する。冷感症のカノジョは実は性転換した元男性で低音を気にしての無口、身代金強奪を先導する男は元警官で低収入を怒っての犯罪者転向とわかる。警察に押し入った3人は、逆に銃で反撃され、居候は瀕死の重傷を負う。彼らは家まで帰り着くが、床下に隠れていた少女は元警官に見つかってしまう。彼女をかばうニイとの争いの最中に元警官の持っていた銃が暴発する。暴風の中、神の意思が事態を急変させる。アンサンブルによる壮大な場転は、人ならざる超自然現象がこの世界で起こりうることを納得させる。またたく間に半年が過ぎ、季節は秋から翌年、本当のエイプリルフールの日になる。庭の桜の満開を待つ人々に真実が明かされる。その木は桜ではなく、毎年造花を飾りつけて花を咲かせていたこと、そして隠し金を奪いに来た脱獄囚2人が、改心して瀕死の居候の命を救ったこと。漁夫の利で隠し金を偶然手に入れた村の役員は、それを猫ババしてまったく良心は痛まない。元気に造花を飾りつけるニイは実は死んでいる。奇蹟は居候の身に起こったのだ。心正しい者が選ばれるとは限らない。命拾いしたのは悪友で、濡れ手に粟の大金を得たのも詐欺まがいの村起こし役員の方。救われることもあれば、救われないこともある、ちょっとせつないこの現実。気まぐれな神の配慮でこの世は成り立つ。エイプリルフールにどんな嘘でも許されるわけではない。ただ、嘘が明かされ、真実が露わになる日に過ぎないのだ。
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