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男と女の埋められない壁 浅川夏子
顔に負った傷のために、家に閉じこもり掃除もしない無気力な独身女。
離れて暮らす家族から心配されることも、いままで自分には無関心だった同棲相手が、顔の傷への同情から、勝手に進めようとする結婚話にも、自分の意志が無視されたようで、心がひりひりして腹立たしい。
どうしようもなく鬱状態の自分に、どうしていいのかがわからない。
「可哀想とか責任感とか、私そんなん腐ってしまう」
他の女性ならこんな時どうするのか。自分に一番近い存在である母、昔の母の気持ちを聞いてみたい……。
女はもやもやとした感情を整理するように、ベランダにでて、そこから見える隣家の皮膚病の飼い犬に、自分が空想する物語をはじめる。母の若い頃に流行していた歌、ちあきなおみの「喝采」とともに、彼女がイマジネーションを広げる空想世界の主役は、かつて現役の“女”だった母。
女が実権を握るその王国は、次期支配者となる王女様のため、成長の糧(滋養?)として男達が土に埋められていく。リビドーだけで生きているような男達は、王女と寝たいがために懸命にアプローチ、自分のために男を犠牲にすることに苦しんでいた王女は、その中から選んだ一人の男とともに城から逃亡する。

狭いアパートの一室から、一変して、女の妄想全開のリビドーな王国へ。
十数人の男達が白ふんどし(越中だったような……)姿で踊る、エロスな王国の粋と言っていい、劇場の室温があがりそうな、おバカで情熱的なダンス。ここに、なんというか、作・演出のごまのはえ氏の真心があるような気がする。以前彼は、自分の演劇のテーマは「愛・死・エロス」だと話していたことがある。普通の人々のちょっとした日常をみせる連作『スロウライフ』。その第三弾として、彼が今回この作品に投じたのは“愛”と“性”。
日本では、とくにいい大人になるとセックスへの後ろ暗さを感じる傾向が強い。
女性雑誌の特集記事やテレビでは、日本人の性感覚は昔に比べてオープンになったと言われていたりもするけれど、小学校の性教育に対して親と政府が指導方針をもう長い間決めかねている時点で、やっぱり変わったのは上っ面だけ、本質的なところは昔のまんまじゃないの、と思う。
つまり、女の子でも「エッチする」なんて気軽に言うようになっただけで、「じゃ、どうして愛のあるエッチはよくて、遊びのエッチはダメなの?」という素朴な疑問に対して、“愛”という名の道徳の意味をちゃんと教える機関は、やっぱり今も存在しないのだ。

『愛のテール』で、“愛”は“性”との表裏で描かれている。顔に傷を負った女は彼氏との馴れ合いのセックスに失望を感じ、「愛が解らへん」と思いはじめ、王女は選んだ男と何度も寝るうちに、彼の恋愛感情がだんだんと冷めていくのを実感する。
「愛はすぐに形を変えて、掴んだと思ったら、愛のしっぽだけ」
スタート地点は同じだったはずなのに、気がつけば、男女のカラダのわずかな温度差は、はっきりとした心の温度差になっている。まさに“男と女の間には深くて暗い川がある”((C)黒の舟歌)だ。
そして終盤、男の身勝手さで娘を叱る父を、
「この子はちゃんと浮きあがってこれる子やから」
と恫喝する母。母親と女性、ふたつの立場で主人公を見守る母は、妄想世界でも、男を捨てて本物の愛を探す、真っすぐで強い王女として、迷いをぬぐえない女の背中を押す。女は彼と別れる決心をして散らかった部屋を片づける。

普通の人々のアクの強さが、劇中で流れる昭和歌謡でいい感じに強調される。
「喝采」「また逢う日まで」「黒の舟歌」「あの鐘を鳴らすのはあなた」……
なにげない日々の中にも、ちゃんと喜怒哀楽と愛と性がある。ごまのはえ氏が描きだすスローライフは、歌謡曲そのものだ。


キーワード
■愛 ■性
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