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パフォーマー
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会場
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公演日
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日本版潤色の成果 |
西尾雅 |
ウィーン版の原語・字幕上演を観て日本語訳との違いにあらためて気づく。そもそもタイトル「エリザベート」のイントネーションからして正確には「エリーザベト」、その息子「ルドルフ」は「ルードルフ」だとメロディで知ってはいたけど、ドイツ語の強い調子と日本語のやわらかさはまったく違うと認識を新たにする。けれども、宝塚版が日本のエリザベートブームの発火点。ウエストエンドやブロードウェイだけではないドイツ語圏ミュージカルの存在を知らしめたことでも注目に値する。この成功が、同じクンツェ+リーヴァイの手になる「モーツァルト」や、ついに日本から海外に飛翔することが決まった「マリー・アントワネット」につながっていく。何より日本の観客をつかんだ小池修一郎の潤色が評価されるべきだろう。小池があらためてオファーし、快諾した作者が増やした新曲「愛と死の輪舞(ロンド)」は宝塚版のサブタイトルにもなる。トートがひと目でまだ少女のエリザベートを恋したことで、すべての運命が回り出す。劇中でくり返される愛を求めて死が追いかける(つまり愛と死の間で駆け引きが行われる)詩とメロディは、失意と自信が交互するエリザベートの波乱の人生の映し絵そのものだからだ、それも歪んだ鏡に映った。ハプスブルクを知らない日本人のためにオーストリア・ハンガリー2重帝国の説明を加えたのも正解。民族独立の気運が高まるハンガリーの独立運動を抑えるためにエリザベート人気が利用されハンガリー王妃を兼任するくだりで(ハンガリーの民衆は、皇太后ゾフィをはじめとするオーストリア宮廷に反発するエリザベートに同じ反オーストリア感情から親近感を持った)、ハンガリー独立運動の闘士エルマー、シュテファン、ジュラという新たなキャラクターを創出した。これが若手男役の登竜門となり、エルマー役を経験した和央ようか(96年、雪組)、湖月わたる(同、星組)の2人は、やがてトップに就任することとなる。新キャラの登場は出演者が多い宝塚ならではの配慮でもあったが、エルマーらの相談に乗ってハプスブルク打倒を画策するトートの擬人化が進むことにもなる。ウイーン版ではエリザベートと息子の皇太子ルドルフそして暗殺者ルドルフ以外には見えない死神(黄泉の帝王)トートが、ウィーンのカフェでエルマーのみならず客たちの前に姿を現す。大団円で天上に召されていくエリザベートの至福の表情に、彼女の手を取る宝塚ならではの擬人化されたビジュアル系トートの真髄がうかがえるが、人々を魅了するトートのフェロモンが宝塚版ではカフェの民衆にも振りまかれている。夫の皇帝(彩吹真央)にも容赦なく自分の要求を持ちかけるエリザベート(白羽ゆり)は、たしかに現代の個人主義を先取りしていた。自分だけを信じる彼女は皇帝に一定の距離を置くと共に、トート(水夏希)の誘いを最初は無視する。エリザベートに拒否されたトートの次なる戦略は、彼女と息子ルドルフ(凰稀かなめ)の仲に楔を打ち込むこと。トートに操られたハンガリー独立運動はルドルフをうまく巻き込み、トートの狙いどおりに計画は失敗する。逮捕されたルドルフは皇太子の体面上釈放され、事件はもみ消されるが皇位継承権を失う。とりなしを頼んだエリザベートにも断られ、失意のルドルフは自害を余儀なくされる。ウィーン版ではルドルフの心中相手マリー・ヴェッツェラがトートの化身となって死を誘うが、宝塚版ではマリー抜きの単独自殺で母子関係の破たんが強調される。理想の男性像にバージョンアップされたトート同様、ここでも女性観客の母性愛に訴える計算がなされている。わが子を亡くして悲しまない母はいない。救援を求めるわが子の願いを拒んだ結果の不幸は悔いを倍化させる。わが身に跳ね返る運命の残酷さを嘆き、自分の愚かさに絶望してエリザベートは死を乞う。将を射んとせば先ず馬を射よ。エリザベートを苦しめるトートの戦略は回り道ながら確実で見事だ。死を弄ぶトートの冷酷さがここでは強調されている。けれども、息子の死に責任を感じ自分にも死をと訴えるエリザベートにトートは応じない。「死は逃げ場ではない」が拒否の理由。本作のラスト、狂言回しを務める暗殺者ルキーニ(音月桂)は、トートの意を受けてナイフ(日本版独自の演出。もともとエリザベートが所有していたペーパーナイフで、最初の自殺未遂時に使用を試みた)を受け取り、エリザベートを襲う。エリザベートは突き出されたナイフをいったん日傘で跳ねのけ、自分を見下ろすトートに気づいた後、彼の愛を受け入れる証左としてルキーニの第2撃を心臓で受けとめる。ルキーニの唱える偉大なる愛がここに成就する。ようやく身をゆだねることとなる死。死は人生のピリオド、さまざまな岐路で選択を重ねて来た自分に最終決断を下し、そのすべてを受け容れることなのだ。
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