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言語の壁を越える交流試合 西尾雅
日本キャスト・スタッフが台湾に渡り、当地の台湾キャスト・スタッフと共に1ケ月の稽古を行い、台湾公演を終えた後の大阪凱旋公演。日本2人、台湾5人のキャストはそれぞれの自国語を話し、字幕翻訳もない。言葉に頼らない物語を目指す劇団のスタンスが2ケ国語混成の舞台で試される。

ストーリーはその分単純、上演時間も1時間半と短め。もっとも殺陣やダンス、パフォーマンスの運動量は並大抵ではなく、大音量の音楽やムービングの照明はライブコンサートを思わす。ストーリー展開やキャラ設定はゲームやファンタジーに特有のアクションとせつなさにあふれる。立体アニメと断じるにはキャストからしたたる汗、筋肉痛消炎スプレーの匂いがあまりに人間くさく、まだまだ人も捨てたものではないと思える。

過去とも未来ともつかぬ時代、人の血をすすり生きるヴァンパイア末裔の兄妹が、ヴァンパイア始末を生業とする3人組と出会う。戦闘で兄セトは瀕死、妹ミカは記憶を失う。兄は森で盲目の娘シャナとその連れクマリに救われ、いっぽう妹は例の3人組に助けられる(先刻出会ったはずだが、様子の一変したミカを3人はヴァンパイアと気づかない)。

ヴァンパイア兄妹を日本キャスト、人間側を台湾キャストが演じ、ヴァンパイア狩りの3人組に男性、森で兄を救う2人に女性を配す。当初言葉の壁でコミュニケーション出来ないそれぞれのグループは自己紹介から始めて簡単な会話に至る。ケガや病気へのいたわりと異性への興味が愛に高まる。

コミュニケートが出来た2つのグループは理想の関係を築くが、長くは続かない。人の血を吸わねば生きていけないヴァンパイア2人はしだいに弱る。兄から血を分けてもらっていた(ヴァンパイアの自覚も失くしている)ミカは衰弱するのみ。弱るセトをヴァンパイアだと気づくシャナは自分の血を吸うよう促すが、セトは恩人のシャナに手を出さない。

最終章、宿命の敵とついに再会するヴァンパイア対ヴァンパイアハンター組。とりわけ妹ミカを奪われたと思い込むセトと、その妹を愛したハンターのリーダー・ガルウは激しく戦う。体調不良で押され気味のセトはついにシャナの血を受け入れ、争いに巻き込まれてシャナは死ぬ。目前で兄セトの血を吸うミカに人間たちは衝撃を受けるが(人間と思って愛していたので)、ヴァンパイアの正体をさらしたミカは元気を取り戻す。ミカを挟んでセトとガルウが刺し違え、生き残ったミカとクマリは争いの不毛を嘆く。

輸血は瀕死の病人を救う。血が生命そのものと古来から知られていたからこそヴァンパイア伝説も生まれたといえる。生命の源である血は愛の象徴でもある。ヴァンパイアであるセトに自分の血を差し出すシャナは無私の精神、慈愛の心に満ちている。兄の血を吸うミカとセト兄妹には近親相姦の匂いが濃厚だ。ミカをめぐるセトとガルウの反発は男女の三角関係そしてヴァンパイア対人間の血族間の争いでもある。

言葉も異なる2つの種族が自己紹介からコミュニケートを始めるくだりは、日本と台湾2つの劇団のおそらく稽古風景そのまま。フィリピンと交流する燐光群、ロンドンで製作した「THE BEE」を日本に持ち帰った野田秀樹など海外とのコラボは演劇界の潮流だが、小劇場間の本格的な合作に驚く。もっとも今回、日本キャストは2人とも客演なので、Afro13は小劇場というよりパフォーマンスユニットと呼ぶべきかもしれない。

カーテンコールを終え、キャストの去った舞台上には大きな水たまり。それは、キャストの身体からしたたり落ちた膨大な汗だ。言葉の壁を乗り越え、異文化交流を図る。頭だけで出来きやしない、生身の肉体がぶつかり合ってこその成果なのだ。証明を果たし終えて水の輝きはようやく縮まり始めたようだ。

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