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守られないのが約束か 西尾雅
上品芸術演劇団は伊丹アイホール演劇ファクトリー最後となる9期卒業生とチーフディレクター・鈴江俊郎が06年10月に「まじめにともだちをかんがえる会の短い歴史」で旗揚げしたユニット、今回が2回目の公演となる。鈴江主宰の八時半は「完璧な冬の日」(06年2月)以来新作はないが、作・演出が同じ鈴江マインドはどこでも変わらない(近畿大文芸学部芸術学科演劇芸能専攻の教員当時の卒業公演時にも毎年オリジナル作品を提供)。小集団の崩壊しつつある関係性を描いて、独特の早口のモノローグ(会話が成立しないほど急いだ一方的なしゃべり)と屈折したユーモアあふれる舞台は既視感がいっぱいだ。

不法入国者や残留者の多い日本の治安とそれに伴う労働者の低賃金が懸念されているが、格差や差別を逆の視点から見るイフの芝居。憲法が改正され出兵した近未来の日本は敗戦、経済も破たんして2流国に成り下がる。闇組織の手でイギリスに不法移民し最低条件で働く日本人グループの顛末を描く。

狭い屋根裏で寝泊りする3人の出稼ぎ女と意外と良心的な見張り役の組織の男。彼女らはそれぞれ国に残したわが子や夫、母を気にかけ、弟やその恋人をイギリスに呼び寄せようと倹約に努める。が、当地で恋人が出来ることもある。妊娠しても不法滞在ゆえ出産も堕胎もままならぬ女。いっぽう永住許可書欲しさに近づいた現地女性に本気になったばかりに愛の純粋さを守りたく今さら不法滞在を言い出せない男も悩む。

異国で暮らす大変さよりもそれぞれに抱える葛藤が彼らを苦しめる。が、渡航費用の借金返済が遅れる彼女らを、組織は別のより悪質な組織に売り飛ばす。ピンはねが甘い男の温情が裏目に出たのだ。次は管理され身体を売るはめになるだろう、かつての従軍慰安婦のように。絶体絶命の彼女たちは逃亡を試み、果たされぬ約束のむなしさを知る。

叶わぬ約束は国に残した家族とのものであり、愛してしまった相手とのものであり、闇組織との契約であり、祖国が憲法改正した際の釈明でもある。責めるられるべき不実の原因は、それを守らぬ相手だけでなくそれを許した自分にもある。

純粋な愛と永住許可書どちらを選ぶかで男の感情は引き裂かれ、堕ろすべきか産むべきかモグリの医者に診てもらうべきか否か女は堂々巡りの悩みを続ける。矛盾する想いに分裂した人は、感情を他者に向けて吐き出す。言葉はマシンガンのように速射を続けるが、暴発することで自己満足してしまう。始めから相手の反応に期待してはいないのだ。

登場人物全員が椅子を倒しながら舞台上をぐるぐる走り回るシーンが行き場のないエネルギーを象徴する。祖国に残した家族を回想するシーンで、早替りの家族役がパンストを被る演出も興味深い。長い間、会っていない家族は既に顔もわからないほど不明瞭になっているのだ。彼らの語る思い出が本当だったかどうかもわからない。交わしたはずの約束すら実は妄想に思えてくるのだ。

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