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笑いあふれる会話劇に人情もたっぷり 西尾雅
元ランニングシアターダッシュのメンバーで立ち上げた空晴(からっぱれ)。青春をテーマにさまざまなスポーツを取り上げ、舞台を汗びっしょりで駆け抜ける姿が印象的だったダッシュとは一転、家族の結びつきを描く会話劇で旗揚げを飾る。アイホールなど天井の高い劇場に映える照明がダッシュのウリだったが、家庭が舞台の本作は照明もシンプルにウイングフィールドの小空間を生かす。

もっとも、ダッシュの看板だった上瀧昇一郎と平本光司の出演そして女優陣の要だった岡部尚子の作・演出というだけでダッシュと比較するのは無意味だろう。ダッシュはあくまで照明家でもある大塚雅史が主宰した劇団であり、空晴は岡部の女性らしい細やかな視点で人間関係を見つめた、ある意味オーソドックスな演劇を目指しているように見えるからだ。

惑星ピスタチオ(かつて看板だった佐々木蔵之介の活躍がまぶしい)の残した身体の限界に挑戦した動きは、ピースピットやsunday、化石オートバイ、ミジンコターボなど関西の劇団に今も少なからぬ影響を与えているが、照明担当の大塚はその系譜を最も引き継いだ演出家のひとりでもあった。劇団内ユニットで本作と同様のほのぼのした作風を既に披露していた劇団員の岡部は、ピスタチオ以来のスピィーディな肉体派エンタメと決別し、あらためて自分たちの資質に忠実に向き合う。人情味豊かなその世界は、惜しくも解散した立身出世劇場に通じるこれもまた関西の風土から生まれたものだ。

プロローグは幼い姉弟たちのオセロゲーム、頑固な長男(上瀧)と甘えん坊の次男(平本)を年長の姉(川下ともこ)がとりなす回想シーン。瞬時に時間経過して古い実家をリフォーム中の現在、生活不便な上に母が急遽検査入院して家の使い勝手がわからぬ兄は、工務店担当者(小池裕之)への応対もぎこちない。そこに病状を案じた弟が東京から久しぶりに帰って来る。

プロローグからその場に居続ける姉はこの間会話に参加せず、既に死んでいることが観客にも呑みこめる。姉の死に触れたがらない兄と対照的に、ひとりの時に弟だけは姉に話しかけ彼女も応える。兄や工務店担当者には見えない姉が弟には実感されている。病院から母が電話で容態を連絡して来る。電話の向こうの母の声を姉役が代行し、姉として弟とも会話するのが演劇ならではのトリックの伏線だ。

田舎でくすぶったままの兄と、少年野球の頃から地元のヒーローで東京の実業団チームに就職を果した弟との折り合いは悪い。両親の面倒を見なければならない兄と、実家を飛び出し自分の好きな道を歩む弟はいつか疎遠になっている。2人だけでは間が持たず、ギクシャクした関係をとりなす役を工務店担当者が引き受けるハメとなる。

母は病院から兄のケータイに連絡を何度か入れてくるが、兄が席をはずした隙に工務店担当者が電話につい出てしまう。母はその声で顔なじみの工務店担当者とうすうす気がつきながら弟の実情を打ち明ける。チームから戦力外通告を受けた弟は会社も辞めざるを得なかったと兄は初めて知る。

兄の前であくまで虚勢を張る弟に、窮状を知る兄はかつて弟が在籍した少年野球監督のポストが空くことを知らせる。弟は次期監督を引き受け、兄弟は故郷で一緒に暮らすことになるだろう。母からの電話と思えたその声は、死んだ姉本人からだったことがわかる。2人の不仲を憂えた姉の想いが、気遣いを喜ぶ母親や親切な工務店担当者の力を借り、兄弟に仲睦まじさを取り戻させたのだ。

母の留守中に不得意の料理に挑戦する男たちの手際悪さを皮肉る女性の視点が笑える。きゅうりとワカメの酢の物ひとつ作るのも大騒動だ。現実には料理の出来る男も少なくないのでかなり戯画化されており、ハッピーエンドのオチもありがちだが、メルヘンに難癖つけるのはヤボ。劇団員4人の持ち味を引き出す絶妙のアテ書きには拍手だ。

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