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世紀を俯瞰する新たな展開 西尾雅
昨年6月に大阪ウルトラマーケットで初演した本作も、11月の彩の国さいたま芸術劇場を経て、ここ京都春秋座でツアー最終を迎える、その前楽。シーン8「風の旗」がリニューアル、南米の地図が背景の映像に加わることでノイチたちの大陸縦断が視覚化された。容赦なく吹き寄せ、ともすれば地図を覆い隠す砂嵐。彼らに立ちはだかる過酷な自然と人々の弾圧。それに抗する彼らの意思が旗のように熱く翻る。

ウルトラマーケットより幅、奥行、高さともある春秋座の舞台に合わせた変更も。バトンが使えるのでサトウキビ畑や印刷所、病院への場面転換が速く、奥行のボリュームも増す。本番の回数をこなしたせいかそれとも2階まである客席への配慮ゆえか演技も大きくなりわかりやすくなった。アン役の大石美子の赤いワンピースが、とりわけ華やかになめらかに舞う。

1908年、初のブラジル移民(ちょうど100年前だ)の少年ノイチは、同じくポルトガルから移民した少女アンと知り合う。印刷所に絵描きとして勤めるノイチと農場主から可愛がられるアンとの恋そして花売りの先住民チキノとの友情、人種や国籍を越えた交流が深まる。が、革命の波はブラジルにも押し寄せ、デモの混乱の中で農場主はアンをレイプ、それを見咎めたノイチを農場主は銃で脅すが、銃を奪ったノイチは逆に農場主を殺してしまう。

3人で南米を流浪中にアンとノイチの息子リオが生まれ、アンが病院に職を得て穏やかなひと時も過ごすが、第2次世界大戦が始まるや日本人排斥運動が高まってノイチは収容、騒乱の中でリオが亡くなる。ノイチは逃れ、チキノと共に黄金卿を目指し登り続けるが、力尽きて倒れる。彼が目指した頂のはるか向こうにニューヨークの摩天楼がそびえ、アンがたたずむ。それは、まるで生きている自由の女神のようだ。

バージョンアップ箇所は、たとえば洗濯物が翻る病院。役者が手前で張るシーツ以外にバトン吊り下げでシーツの枚数が増え、奥行感が増量されたこと。エルドラドで、役者が花道のスッポン下から這い上がり舞台の崖上まで延々登り続ける動きは、エッシャーの騙し絵がエンドレスに動いているかのよう(春秋座は京都造形芸術大学副学長だった市川猿之助・芸術監督により歌舞伎公演にも対応)。

劇場ごとのキメ細やかな演出の違いは、たんに劇場に合わせたチューニングではなく、演じる空間に敬意を払えばこそ。野外の経験豊富な維新派ならではの唯一無二の「場」への賛辞だ。

20世紀を旅する3部作シリーズの第1作は、日本とは「地球の裏側」の南米が主な舞台。本作中で約50年の時が流れるが、日本からブラジルに渡ったノイチが南米中を旅する姿を、歴史的かつ地理的に俯瞰する。本作はロードムービーと評されるが、時間を縦糸に空間を横糸に織るタペストリーでもある。

革命で高揚する民衆デモは、狂信的な日本人排斥の昂ぶりと通じるものがある。清潔な白いシーツに覆われた病院が、戦争になるや死傷者の血で真っ赤に染まる。入国管理事務所と収容所も、どこか似ている。すべての出来事に裏と表があるが、よく見ればそれは似ており、一周すればつながっているのだ。地球の北半球と南半球で夏と冬は反対だが、季節がめぐることは同じであるように。

4mの背丈の巨人が物語の案内役として登場。顔はノイチと似ており、彼の過去を観客が一緒に旅する趣向だ。ブラジルに渡る一隻の船はノアの箱舟にたとえられ、その後の日本人移民たちが旧約聖書の家族に擬せられる。これは彼らを通して見た私たち日本人の裏側を発見する旅でもあるのだ。

フリージャズと現代音楽が融合した音響の渦に、絵画的映画的ダンス的なシーンを積み重ねる手法は演劇のカテゴリーを大きく超えており、これぞパフォーミングアーツと納得させられる。

「役者の動きや配置はブリューゲルの絵を参考にすることも」と主宰松本は何かのインタビューで応えていた(出典は失念)が、細部はち密ながら全体が迫力ある俯瞰絵図は、京の街並と暮らしぶりを活写した狩野永徳「洛中洛外図屏風」を思わす。20世紀を通史する3次元立体バノラマ展望ライブ、第1部が今開幕したのだ。

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