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真実を隠すいくつもの虚構 西尾雅
前作「つるつる」(07年11月)をもって奈須崇が退団、劇団員3人体制になっての初公演は客演を3人招き賑やか。男優4人に客演の女優ひとりが加わるスタイルが多かっただけに、人数増の厚みが笑いをいっそう膨らませている。今回は劇場こけら落としを飾る中之島演劇祭の一環として行われたが、ひな壇状の客席を持つ新ホールを階段教室とし、裁判員制度の導入に伴う専門学校の授業に見立てる発想は参加劇団中随一だ。

舞台上は法廷そっくりだが、授業説明用のスクリーンが設置されているので模擬裁判所とわかる。開演前から担当の講師(山本禎顕)が備品をあれこれチェック、席に着く客の中に今日舞台に登場するはずの役者を発見して緊張が高まる。劇場は客席後方から入るのが一般的だが、ここは向かって右側、舞台と客席最前列の通路すぐ横に入口があり、着席すればひな壇状の客席から、入って来る客がすべてお見通し。(当ホールも2階席は後ろからの入場。客席前方から入場する劇場としては他に、HEP HALL、in-dependent theatre2ndなどがある)

いよいよ開演、いや授業つまり模擬裁判の実習が始まる。客席に座るのはすべて生徒という設定、その中から抽選で選ばれた検事や弁護士、被告、証人役が舞台上に上がる。選ばれたのは、むろん先ほどから客席にいる役者4人、そして開演後に遅刻して入って来る真野(北村守)。真野は被告役、その弁護士に下田(森澤匡晴)、検事に団藤(上田一軒)、証人に横尾(森川万里)、書記に高橋(中西邦子)が配され、講師苦心の手作りテキストを順次読み上げる。ちなみに、この専門学校では司法試験や公務員試験、あるいは司法書士や行政書士を目指している。

事案は、年長の女性と結婚を約し、彼女の金銭援助で裕福な同棲生活を送り、さらに彼女に借金を重ねるも、突然行方をくらました男性を結婚詐欺罪に問うもの。突然の指名でそれぞれ書記や被告の役を振り当てられ、とまどう様がまず笑える。専門学校の実習という設定が、芝居ならではの虚構。講師と生徒に扮した役者は、さらに虚構の裁判寸劇を演じる。いわば虚構が2重に仕組まれている。

裁判が進むにつれ結婚詐欺カップルの事案は、実は講師自身の体験実話とわかる。おまけに、元カノから訴えられた講師が、この授業直後に本当の裁判で被告となることも。彼の願いは、詐欺ではなく本当に愛していたので無罪だと模擬裁判(と本当の裁判)で証明すること。

が、そのシナリオいや模擬裁判用テキストに、講師の分身であるはずの被告役・真野が違和感を訴え、彼の目論見は崩れていく。実は真野も愛した彼女の元を去るという同様の経験を持つ。

男性が婚約指輪を渡したか否かが愛の証とされ、その件を尋ねられた真野が証言をためらう。そこにデパートで指輪購入を交渉中の真野を見かけたという目撃者が現われる。その証言に立ったのは書記役の高橋、そして贈ろうとした相手の彼女が証人役の横尾。

この時点でテキストの虚構から完全に離れ、真野自身の真実が裁かれ出す。買う意志はあったものの手持ち金がなく、指輪は結局買わずじまいだったと真野は告白。指輪を渡していない、これが決め手となって傍聴の生徒(つまり観客)は有罪の判決を下す。

模擬裁判の結論が出た後に、どんでん返しが待つ。実は、真野は指輪を購入していたのだが、無資格そして無職の身でプロポーズが出来なかったのだ。不安定な立場は、試験に失敗して資格浪人を重ねる講師や団藤らにとっても他人事ではない。定収入のない将来の不安ゆえ、愛すら素直に打ち明けられない苦悩は、おそらく演劇を続ける自分たちを映したものだ。

好きな相手にプロポーズが叶わぬ悔しさは、横尾の妊娠告白でさらにひっくり返る。出来ちゃった婚でとりあえず2人はハッピーエンドを迎えることとなるが、ほろ苦さも残る。真野の実力では、この先どうあっても合格は難しい。人柄はいいので、それなりに幸せな暮らしを送ることにはなろうが。

判決と正反対の真実が明かされる展開は裁判員制度への警鐘。人は自分に不利になるとわかっていても、本当のことを言わない時がままある。揺れ動く人の心。もし真野が指輪の件を素直に告白していれば、当然無罪だったはず。

人が人を裁くこと、そして真実を見極めることの難しさが、あらためて突きつけられた格好だ。裁判で真実が解き明かされる。それもまた大いなる虚構にすぎない。そもそも人の愛を、他人が裁くことこそが筋違いなのだ。

自問自答のスパイラルに陥って身悶えする北村に母性愛をくすぐられた女性客も多いはず。彼なくして本作はあり得ない、まさに関西小劇場屈指の天然系男優だ。検事と弁護士の互いに譲らぬバトルは、創作で妥協しない作家と演出家をほうふつとさせる。スクリーンを通したリアルタイムのライブ映像で裁判に乱入する川下大洋(スペシャルゲスト)が、深刻なテーマを和らげる。所属する桃園会ではけっして見られない森川のハジけたコメディエンヌぶりも収穫だ。

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