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頭の良くなる芝居 平加屋吉右ヱ門
 舞台というものは制限の多い表現手段だと思われている方も多い。しかし、そのことは表現できることが制限されていることを意味しない。確かに制限はあるのだけれど、そのことをうまく利用すれば、観客の感覚をうまく刺激し、時間と空間の扱い方を工夫すると、演劇を見ることの面白さを抽象化し取り出すことが出来ることを彼らは示してくれた。空間としてねじれた世界は3次元では表現できないが、M.C.エッシャーのように2次元の絵の中では表現できる、という例もある。

 この舞台は、描く空間を碁盤の目のように九分割し、それぞれを1つの部屋とし、時間と空間を九回に分けて、一つの物語を進めていく。最初に中央の部屋で行われる会話と動きで始まる。隣の部屋との間で交わされる会話は扉が開いていると声だけが聞こえ、観客の想像力を刺激する。次に場面がかわり隣の部屋へと移ると、観客たちの想像は覆され、新しい発見が生まれ、同時に新しい疑問が作り出される。次々に生み出される疑問と、観客の想像と予想を覆す答え。九つの部屋が次々と演じられるに従って、次第に全体像が、本当の姿が見えてくる。普段とは少し違うけれどスリルとサスペンスがここにもあった。

 「青木さんちの奥さん」の面白さが即興の妙だとすると、この舞台は、予め計算された舞台の魅力だと思う。舞台を観る楽しさがここにもあったのか。これから舞台を作り始める若い人たちの教科書に使えるような舞台だった。

キーワード
■実験劇
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