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お笑い・音楽・パロディぎっしりの海洋冒険・海鮮丼 西尾雅
意外なことに看板の古田新太が劇団公演の主役を務めるのは、04年の「髑髏城の七人」(アカドクロ)以来4年ぶり。劇場は同じ厚生年金会館大ホールだったが、今回は大幅なステージ数増。06年の「メタルマクベス」も同ホールで行われたが、その際は今回も客演している森山未来らを招いて8ステージ(他に内野聖陽、松たか子、北村有起哉、上條恒彦らが出演)。今春にはキャパが少ないシアターBRAVA!の「IZO」で12ステージだから、今回も豪華客演陣を招いてとはいえ、キャパ2400人規模での20ステージには本当に驚く。しかも連日当日券の列が並ぶ人気ぶりだ。

もっとも古田は主役といいながら、もっぱら狂言回しの役割。全編生演奏の音楽劇ながらソロも歌わないのだから。最初に流れるテーマ曲こそ「五右衛門ロック」だが、そのシーンでの五右衛門は棺桶の中。主役抜きで出演者全員(むろん敵役は別)が盛り上がり、死んだ(と見せかけた)五右衛門の生きざまを陽気に讃えるのだ。

釜茹でにされたはずの五右衛門はどっこい生きており、日本を離れ南の島を目指す新たな冒険(泥棒?)に漕ぎ出す。そう、ロードムービーならぬすごろく演劇だった「古田新太之丞・東海道五十三次地獄旅〜ハヤシもあるでョ!」(94年)を改訂、本格的に生演奏を入れ再演した「古田新太之丞・東海道五十三次地獄旅〜踊れ!いんど屋敷」(00年)を受け継ぐ「笑えるチャンバラ劇」路線だ。

重厚な「いのうえ歌舞伎」ではなくギャグと音楽がメインの痛快娯楽作だが、そこにも中島の提唱するカッコイイ男と女の生き方、その美学が貫かれている。かつて少年ジャンプなどの週刊漫画誌で男の友情が重要なテーマとして取り上げられ、学校の勉強よりよほど感動を覚えたもの。編集者でもある中島は「楽しみながらタメになる」伝統を見事に継承している。

五右衛門に遠征を依頼するのは盗人仲間の真砂のお竜(松雪泰子)だが、裏で操っているのは南蛮商人のペドロ(川平慈英)とアビラ(右近健一)の2人。が、あくまで五右衛門を捕縛せんと役人の左門字(江口洋介)が海を越えてどこまでも追いかける。と、ドタバタの展開やキャラ設定も「ルパン三世」へのオマージュたっぷり。そして、彼らがねらうのは南の島タタラ国の独裁者クガイ(北大路欣也)の持つ月生石(げっしょうせき)とくるから、ネーミングからして明らかにスタジオジブリの影響だ。

嵐で難波し、五右衛門と左門字が漂着したのが偶然にもタタラ。あとでわかるがお竜や五右衛門の仲間も既にこの島に流れ着いており(実はクガイ自身も日本人で10年前にこの島にやって来たことがのちに明かされる)、ペドロとアビラは今まさにタタラに攻め入ろうとするバラバ国の軍船に救われる。何ともご都合主義な展開だが、アンサンブルキャストが書割の装置を出し入れするスピーディな場面転換は考える隙を与えない。

恐怖で兵士を縛りつけ強力な軍を整備したクガイは、先王を倒して今の地位を得る。先王の甥であるボノー(橋本じゅん)は、クガイの息子カルマ(森山)を擁立しバラバ国を起こして、島と月生石の奪還をねらう。カルマは母(クガイの妻)を殺した父を許せず、反目していたのだ。

ここで物語の重心はクガイとカルマ、父子の相克に移る。五右衛門はタタラに隠された因縁を紐解く、いわば説明役の探偵にすぎなくなる。運命に引き寄せられ探偵役を引き受ける五右衛門はいわば金田一耕助だし、甥ボノーが王位奪還に執着するのもシェイクスピアによくある展開だ。

ただ、新感線ならではといえるのはオリジナルのパロディに終わらず、新感線が行った公演のさらなるパロディになっていること。つまり「犬顔家の一族の陰謀」や「メタルマクベス」が再利用されているのだ。弱気なボノーを焚きつけクガイに刃向わせたのは、どうやら宮廷でクガイの妻の世話係をしていた妻のシュザク(濱田マリ)らしい。これはむろんマクベスとマクベス夫人の挿話だが、戦闘後に武将の夫が一転して妻に甘えるシーンは「メタルマクベス」ゆずりだ。

ついにボノーとシュザクの悪だくみが暴かれ、カルマの誤解も解けクガイとの和解も果たされる。月生石の独り占めをねらったペドロとアビラの野望も海の藻くずと化す。クガイは、習慣性を持つ月生石の怖さを知り、島ごとすべてを沈める計画を練っていたのだ。ペドロらは月生石の習慣性を利用して民を操らんと欲す日本やイスパニアなど各国の施政者の意を汲む死の商人だったのだ。本当の悪党はお上の方。その悪事の上前をはね、企みを阻止するクガイや五右衛門の泥棒ぶりがスカッとさわやかだ。

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