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そこから始まる 栂井理依
 都市(いや、地球かもしれない)を離れ、ひとっこ1人いない砂漠で、何やら調査活動に励む佐藤さん(古川)と、浜田くん(阿部)。年上だが、どこかおどおどしたような佐藤さんは、「ねえ、阪神勝ったかなぁ」と、浜田くんへ問いかける。しかし、浜田くんは、「はんしん」も「かった」も、理解してくれない。押し問答の末、「わかったよ、(動物の)半身、買ってくればいいんだろ」と、立ち去ってしまう。
 そこへ、突然現われる、現地人たち(おそらく)。佐藤さんと浜田くんの調査機具(実は、ただの掃除機)に興味を持ち、話を始める彼ら。
 「デコデコデコデコデコデコデコ」「デーコデコデコデーコ」「デーコデーコ」
 もちろん、佐藤さんや浜田くんには、何を言っているかわからないばかりではなく、土下座をすることが彼らを非常に歓ばせることであったり、両手をあげて熊のように威嚇することが非常に怖がらせることであったりと、どうやら彼らの民族は、独自のルールを持っているらしい。しかし、そうやってジェスチャーで探り合っていくうち、なんとかコミュニケーションが形になっていく。

 ここでは、コミュニケーションのツールとしての言葉は、何の「意味」も持たない。そして、この劇団のこの物語は、そこから始まるのだ。佐藤さんと浜田くん、対する「デコ」族は、互いの共通言語を持たず、手探りで感情(歓びや怒り、驚き)を表現しあっているように見える。
 しかし、本当のところ、言葉が通じていたって、私たちのコミュニケーションというのは、そういうものではないだろうか?
 現に、同じ言語を喋っている佐藤さんと浜田くんですら、言葉は通じても、意志や感情を伝えられてないのだから。相手が何をしたら歓ぶか、何をしたら哀しむか、こういうときには何を言えばいいのか、どうしたらいいのか…私たちは、いつもそれを気にしながら、手探りで危ういコミュニケーションをしながら生きている。そう、それは佐藤さんと浜田くんと、「デコ」族のやりとり、そのままなのだ。

 残念ながら、これはある演劇祭参加作品だったため、上演時間が短く、それ以上、物語は発展しなかった。(続編は、来春上演予定)しかし、たった30分のコントで、印象に残るシーンをきっちり作り上げるあたり、さすがに役者のほとんどがプロで活躍しているというだけある。次回作は、是非、じっくり腰を据えて見たいと思わせる劇団だった。

 実は、この劇団も、演劇祭も、関西圏で行なわれたものではない。名古屋の地下鉄栄駅近くにあるアートピアホール・アクトリウムで行なわれたものだ。「カラフル」と銘打って行なわれたこの演劇祭には、名古屋の中堅どころの人気劇団が集結して、開催された。シアターガッツ、ホチキス、FIRE☆WORKS、超光速トイソルジャー、試験管ベビーなどが参加。いずれも公演毎に数百人の集客はできる劇団だが、関西での公演実績があるのはシアターガッツだけだ。
 では、なぜ、log-osakaで紹介したいかというと、この演劇イベントが、関西と同じくいやもっと日の当たらない名古屋という「地方」で、関西ではあまり見られない形で立ち上げられたものだったからである。
 幾つかの劇団の代表者と、それを取りまとめる形でプロデューサーが入った実行委員会が、スポンサーを集め、出演劇団を募り、会場をおさえ、チケットを売った。通しチケットを買えば、8劇団の公演が朝から夜までずっと見られる、という方式も功を奏したのだろう。私が訪れた日も、毎回満員で、立ち見がでる回すらあった。述べ6000人を動員したと聞いている。

 プロのアクション俳優たちが、おバカなパロディを繰り広げるFIRE☆WORKSは、ストーリーから深い「意味」なんてものを取っ払ってしまい、最大の武器である身体性を、舞台の上でより自由に解放する。超光速トイソルジャーは、竹取物語を伏線の1つに敷いて、統治権を奪おうとする真夜中のゲリラ戦に挑む兵隊たちのドラマを描く。かぐや姫の帰還とともに、理想VS現実という闘いの無意味さを知った彼らは、1歩前に進もうとする。竹取物語が、小劇場演劇という空間で、新しい物語へと姿を変える。
 「演劇の固定概念を変えてもらい、純粋に演劇を楽しんでもらいたい」とは、実行委員会の1人、プロデューサー聖澤毅氏の言葉だが、実際に、参加していた彼らからは、これまでにあるべきものとしてあった様々な「演劇らしい」要素から、自らを解き放ち、新しい表現へ向おうとしている姿が見て取れた。そして、動員数から考えると、そういう表現を、地元の観客も求めているのだと思う。

 彼らが関西で活躍する日を待ちたい。と願うと同時に、関西でも、このようなイベントの開催される日が来ることをも、願ってやまない。

キーワード
■コメディ ■演劇祭
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