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虹の彼方の記憶を呼び覚ます 西尾雅
昭和初期に造られたレトロモダンな建物がユリイカほど似合う劇団は他にない。彼女らの手にかかるや背景に洗濯物が翻り、スチームが噴出する工場にホールは早替り。自転車のホイールか糸車に似た車輪状の機械を7台並べ、持ち場についた女工さんが、白黒無声映画のコマ落としで働く。太陽に手を合わせて一日が始まり、ラジオ体操、朝礼と続く懐かしくも貧しい、けれど美しき日々が展開される。社長は自転車で営業に走り回るが、経営も自転車操業。安い給料に一同不満だが、まだまだのんびり。いわば古き良き時代の絵本、お伽話だが、童話につきものの残酷さも併せ持ち、甘さにひめた辛口で引き締める。

社長に片思いし、失恋する者あれば、見事ハートを射止め、結婚を果たして社長夫人に納まる者もあり。多少の波風あれど流れ作業そのままに平穏だった工場に変化が訪れる。社長の親友が工場に戻って来たのだ。機械の数には限りがあり、ハミ出したひとりの女工が屋上に立てこもる。もう1台の機械を入れるべく大車輪で働く一同に凶報が入る。製品の不良キャンセル。それは社長の親友が担当した部分だった。それを知った彼みずから工場を去る。残ったのは集合写真1枚だけ。全員揃ったその中に、けれど撮影した彼本人はもういない。好きな煙草「流星」のように、工場名「コマドリ」のように空を渡って彼は消える。果たして彼は存在したのだろうか。煙草の煙のように、虹のように消えてしまえば、存在は記憶の中にしか残らない。

誰にでもなくしたもの、還らないものへの思慕はある。戻らないものへのせつなく、つらく、甘酸っぱい気持ち。それは昭和という時代だったり、少女の頃だったり、懐かしいあの人だったり。生きるのに懸命だったあの日が実は幸せだと後になって気づく。それは、思い出せる今が幸せだから。ユリイカは、ほろ苦さと一緒にそのことを教えてくれる。痛みや辛さが幸せのスパイスだということをあらためて確認させてくれる。彼女らのさえずりが、心の奥に眠る素朴なチカラを呼び覚ます。

キーワード
■童話
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