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永遠に繰り返す空白感の悲劇 西尾雅
小集団の人間関係、なかでも男女のしがらみに焦点をあて本質をえぐり出す鈴江が、最近は家族を軸に展開する。「うれしい朝を木の下で」は姉妹、今回も葛藤する姉妹が登場するが、主軸は祖母、母、娘と続く男運のない女系家族にある。劇中では大概たよりなく優柔不断な男性と、しっかりした決意を持つ女性が対比され、女性の前には大きな壁が立ちふさがる。抱える問題に彼女らは手を焼き、向き合う男は男でまた傷ついており、両者に横たわる溝は絶望的なまでに深い。

弁当屋の2階、従業員控室。もっとも社員は店長のみ、あとはシフト勤務のバイト。祖母が老後に始めた弁当店がヒット、2号店も開く勢い、創業の祖母は新店に移って陣頭指揮、母・啓子(中村美保)が旧店を守り、若くして生んだ娘・萌(厳愛玲)が高校中退して手伝う。うつ病を抱えるまき(田之室かおり)とその姉をけなげにフォローする妹・みき(福田尚子)2人を雇うほど心優しい母は、経営不向きなおっとり屋、今日も売上合わずに悩む。慣れぬ商売に手を出したのは離婚ゆえ。浮気と暴力やまない男だったのに、未だ別れた夫からの電話を啓子は心待ちにする。そんな父、いや男への幻想を、母と正反対にキッパリした性格の娘は捨ててしまっている。

バイト・ユウキチ(森田成一)の同級生・高井戸(東理子)が新しくバイトとして入ってくる。前の会社を辞めてまでの決意は、ずっとユウキチにあこがれ慕ってのこと。もうひとりのバイト、1枚CDを出しただけの売れない元歌手・足立(北村優)も音楽への未練を捨てきれない。ユウキチには高校まで夢中だったサッカーが、高井戸にはあこがれの選手だった彼が、足立には音楽があきらめきれない。別れた夫への啓子の思いもまた同じ。

彼らはみな、それが未練でしかないことを承知している。手が届かない、けれど心縛られたまま理想と現実のかい離に苦しむ。空白を埋めることは何をもっても出来ない。埋まった次の瞬間に、新たな空白は既に生じている。奪い取って手にすれば、もはやそれはつまらない。他人のものこそがうらやましく、また奪いたい。啓子の夫も、それが理由で浮気を繰り返す。離れてしまえば、前の女房もまた恋しい、だからこそ甘い囁きを今さらよこす。夢中になりそして醒め、夢中になりそして醒め、その愚かさを人は繰り返す。鈴江戯曲の特徴はおびただしい繰り返し。早口で繰り出される長いセンテンスの後に、決まって激高した台詞が反復する。繰り返される愚かさ、壊れ行く様を連写して容赦がない。

1、2、3と順番に話さず、例えば1、3、6とはしょっても内容はわかる。けれど、省かれたデテールこそ大事、理解に必要なカギはそこにあるとみきは主張する。人生のほとんどもまたムダ、しょせんは壮大なムダの集積。埋まらない寂しさを埋め続ける、愚かさの繰り返し。ムダの積み重ね、その中に苦しさとうれしさがある。啓子はそれを受け入れてつぶやく「寂しい世界を否定したって仕方ない。それが世界なんだったら仕方ない」。世界は永遠に続く寂しさの繰り返し、その回転に過ぎない。真っ四角の台に乗った舞台装置を、役者たちは人力で盆回しする。暗闇で一瞬光る火花みたいに、一瞬の光を求め、人は寂しさを埋めようともがき続ける。

キーワード
■家族 ■恋愛
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