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捕物帖を借りた現代の告発 西尾雅
第3回を迎えた恒例の野外演劇祭は参加各劇団それぞれに個性的。劇場の建て方ひとつにも特長がある。そもそも、既成のハコを拒否し独自の空間を求めたことが出発点だから、建てる劇場にこだわるのは当然。唐組や新宿梁山泊はオリジナルのテントでキャラバンのように移動する。漂泊の旅を続ける公演形態に演じる芝居以上のロマンが薫る。楽市楽座も都会や公園の片隅に新調したラフレシアを組み立てる。いわば、仮設移動のユニットで自分たちの空間をデリバリするのがひとつのタイプ。

もうひとつは、維新派に代表されるように劇場を立てる土地にこだわり、その地の空気を感じさせるタイプ。犯友も、関西にこだわって完全なオープンエア型の野外劇場を組み立てる。丸太を組み込んだ客席は桟敷席と急な階段を昇る4段の物見席に分かれる。江戸から明治に変わったばかり、まだ世情騒然とした大坂の下町が舞台に俯瞰される。上手に、当時の最新流行である裂布小物や石鹸を扱うよしず張り屋台のファッション店や江戸前の寿司屋、その2階部分に訳ありカップルが休憩使いもする料理屋、下手が長屋、その共同井戸や便所までリアルに造りこまれる。はるか奥に火の見櫓がそびえ、手前に本水の入った堀が切られる。明治初期にタイムスリップしたかのような空間は、流れる空気までどこか懐かしい。狭い劇場でなく夜空の下に開放されることで現在の難波宮跡が昔の大坂につながり、同じ時代を生きているようなほっこり気分に包まれる。

主役はこの町で十手を預かる一本柳のお糸(中田)。捕物帖の犯人探しのスタイルを借りて、時代に翻弄される人のあわれをつく。犯人を推理するお糸は名探偵の役どころだが、どっこい最初から犯人は知れている。既にチラシに犯人の姿がイラストで描かれているのだから。つまり、お糸は犯人の境遇の悲惨を盛り上げる狂言回しでしかない。とはいっても、お糸のキャラの魅力は捨て難い。亭主に逃げられ仕方なく家業の十手を預からざるを得ない要領悪さと小悪党から分け前を賄賂として受け取るちゃっかりさを兼ね備えた人間くささがいい。合理的な思考と情のもろさの両面も同居する。犯人逮捕に向けた応援の捕り方一同への指揮挨拶に彼女の真骨頂がうかがえる「勇気はほどほどに」(逮捕よりもまずは)「ご安全に」。

お糸が追うのは、はした金目当ての連続辻斬り強盗事件。犯人は江戸から流れてきた落ちぶれ士族だが、侍といってももともと古文書係で、いっけん人など斬れそうにない人の良さそうな男に見える。けれど、幕府が倒れて後、幕府側だった藩の侍はみな失職し、貧乏を余儀なくされている。妻が身体を売り、ケチな辻斬りで小遣いを稼いで糊口をしのぐしかないのだ。変革の波に取り残された彼の無念さ。表面からけっして見えないどす黒い思いが噴き出す。

歴史時代劇だが、不況の現代を強く意識する。江戸から明治の変革期と現代の構造改革が同じと指摘しているのだ。たしかに武士の失職は現代でいえばリストラに違いない。お糸は見事犯人を追い込むが、犯人は既に時代に追いつめられていたともいえる。殺人に追い込まれた犯人の悔しさを言葉に紡ぐ作者の筆法は鋭く、同情と暖かさに満ちている。

キーワード
■大阪野外演劇フェスティバル ■時代劇
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同公演評
人間のエネルギーを前提とする … 松岡永子

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