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コスパ高いシットコム 西尾雅
上演時間1時間強、今どきザラ紙1色のチラシ、ベンチと函だけの最小限装置、照明も地明かりと交通信号に切り詰める低予算。ちなみにチケット代は、前売・当日とも1000円。暗転で若干の時間経過はあれどほぼタクシー車内が舞台のシチュエーションコメディ。派手なストーリー展開はないが、大人が感情移入できる等身大演劇。微苦笑の日常エピソードにひねりを混ぜてメッセージする手腕や、深夜の相乗り白タクネタやコンビニ各チェーンの店舗数など劇中の豊富なデータに生活感があふれる。早くから劇場を押さえ、予算豊富でマスコミ情宣も上手な劇団が必ずしも結果を出すわけではない。社会人として生活をまっとうしながらも芝居を打つ志がにじむ。地に足ついた良質、いわば無農薬有機栽培の滋味が噛みしめるほどにあふれる。劇中のケータイ着メロを元ランニングシアターダッシュの高市がウクレレ生演奏するのもほんわか。

終電の去った深夜に泉北ニュータウン方面へ帰る客を相乗りさせる白タク。旅行代理店勤務のカップルと個人客の男女1人ずつ。運転手を含め5人の車中は気づまり。が、偶然全員がサッカーファンとわかり、会話がはずみ出す。カップルは企画したサッカーツアーの成功祝賀会帰りの同僚。片割れの準(山本)は、先ほど沈黙に耐え切れずひとりはしゃいでひんしゅくを買ったばかり。先輩のあき(藤井)に注意を受けリードされる準は、いっそ車内で告白に出る。年上のあきもまんざらではなさそうだが、突然かかってきたケータイに応じるや速攻下車。準と別れて今から会う相手こそ本命?

傷心の準が路上に妊婦(本田)を発見してタクシーは急停車。臨月の彼女をピックアップして、かかりつけの産婦人科病院をめざすが、地理音痴の彼女の案内に迷うばかり。妻の危急時にも仕事一途の夫は不在、それにもめげない彼女の明るさが救い。何とか分院に着き、あとは準が付き添って本院へ救急移送されることとなる。

客は初対面の2人だけになった車内。話すうちに、実は同じ会社の部署違いの同僚とわかる。偶然の出会いに盛り上がるが、名乗る前に既に名前を知っていた男(竹下)に女(岡本)は不信を抱く。実は男はストーカーで、派遣の彼女を追って転職を繰り返していたのだ。男に頼まれ同乗を仕組んだ運転手(徳本)も、最後には男に愛想をつかし車外に放り出す。

運転手をよく知っていると女が打ち明ける。運転手の方は忘れていたが、かつての派遣先の上司を彼女は覚えていた。当時サッカーのイベントを仕掛けた彼も、バブル崩壊で借金を抱え離婚も経験、今は再起を期し余業の白タクで資金稼ぎ。企画が成功して浮かれ、妻を放ったらかして仕事に明け暮れた自分の10年。それが今宵1夜の客たちに何と似ることか。

人は何かにこだわらずに生きてはいけない。なかには、ストーカー男のように間違ったこだわりもあろう。けれども、派遣先の仕事が縁でサッカーファンになった彼女はゲームを見るだけであきたらず、今では自分でプレーもする。彼女が車内に残したサッカーボールに運転手は気づく、それが自分がこだわるべき初心だと。見ているだけではわからない、汗を流しボールを追う。サッカーでも仕事でも遊びでも同じ。芝居だってそう、その世界に飛び込んだ役者の楽しさが伝わって来る。それは、不満を口にしながら行動を起こさない私たちへの警鐘。こだわりに挑戦しようというエールなのだ。

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■シリアスコメディ
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