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パフォーマー
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公演日
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子供心が創る大人のエンタメ |
西尾雅 |
ネタモノ、おポンチ系と称される新感線のお笑い路線。いのうえ歌舞伎「阿修羅城の瞳」で泣かせ笑わせカッコ良かった新感線はどこへやら、物語の重層性よりもドリフターズや吉本に近いギャグのてんこ盛りで馬鹿の限りを尽くす。およそくだらないこともお金と時間をかければ一級のエンタメになる。子供の遊びを大の大人が真剣に追及する爽快感に満ちる。例えば、殿を誘惑する養女はセーラー服のコスプレ、ミニスカが風であおられて永井豪の漫画「ハレンチ学園」をしのばせる。エッチがいやらしくなく笑い飛ばせるのは、スカートめくりに興じる子供の視線だから。 守るべき静姫にあろうことか性的興奮した主役の忍者2人は交互に襲うが、マッサージを言い募って迫る誤魔化しはどこか腰が引けている。悪玉家老は姫を裸にして隠し軍用金のありかを書いた地図を改めなければならないのに、SM亀甲縛りに夢中になって着物を脱がすのを忘れる。ワキガ毒霧を発するワキ毛ぼうぼうのくノ一忍者は明らかにAV女優の黒木香がモデル。そこにもエッチに興味しんしんで背伸びしているが、性に向き合うにはまだ早い子供が透ける。 物語全体が子供の好きな漫画の世界。懐かしい漫画をパロディ化したコラージュであふれる。赤影や忍者月光、無用之介などの忍者ものやチャンバラもの、あんみつ姫のお転婆少女の活躍をいただき、ハム太郎に似たマングース人形を登場させ、毎度おなじみスタジオジブリはナウシカがパロられる。キャラにマンガ元ネタがあるだけでなく、展開そのものもマンガ。姫に仕える剣術指南役は誰よりも弱く、うかうかと大事な秘密を自分から漏らしてしまうお間抜け。山賊頭領は命じて掘らせた落とし穴に自分から落ちてしまう。何のための登場?何の役に立つ得意ワザ?という連中ばかり。 竜巻を起こせば自分が飛来した岩にぶつかり、身体の筋肉を鋼(はがね)に変えて手裏剣をハジけば、流れ弾ならぬ流れ手裏剣が味方に刺さる。役に立たず、かえって迷惑な結果に終わる。そのこっけいさ、愚かさ、不条理なおかしさは、ムダにあがき生きる私たちの写し絵に他ならない。真剣にやればやるだけ馬鹿馬鹿しい。あるいは、馬鹿馬鹿しいことを真剣に演じる。それこそが人生であり、新感線そのものなのだ。 本作はいのうえ歌舞伎を謳わないが、そこで培った演出を生かす。そもそも歌舞伎はさまざまな芸能を吸収し大衆娯楽として発展したもの。漫画のみならず本家の歌舞伎や映画、ミュージカル、ビデオクリップまで消化した豪華何でもありの幕内弁当を提供する。お家乗っ取りを図る悪家老は「伽羅先代萩」そのままに弾正を名乗り、森の背景に流れる滝は「鳴神」の美術を借用する。エンディングで富士に似た山を背景に新たな冒険へ旅立つ姫一行の頭上にくるり輪を描くトンビは、浮世絵を「ライオンキング」(ディズニーミュージカルの演出がアジア・アフリカの人形芝居を取り入れている)と合体させる。 歌舞伎の踏襲は書き割りの美術だけでなく黒衣使いに最も顕著。忍者サダの得意ワザは「加速猿飛」、あまりに素早いので敵の動きがスローモーションにしか見えない。おそらく漫画「サイボーグ007」が元ネタだろうが、刀をおでん(おそ松くんのチビ太だ)にすり替えたり、分裂増殖するマングースを空中横蹴りするシーンで黒衣が飛び道具級の活躍を見せる。大金かけた「マトリックス」のCGを、舞台で手作りして観客を喜ばせる。簡単に時空を超え、辻褄合わないこともしばしばの歌舞伎の懐深さを見習えば、中島かずき脚本ではないおポンチの本作もいのうえ歌舞伎を名乗る資格は十分にある。 堀之内から隣国黒川へ静姫(馬渕)が輿入れする前夜、反対側の国境から北浦が攻め込む。お家乗っ取りを企む黒川の家老(粟根)が裏切り、北浦を手引きしたせいで堀之内は落城するが、姫とお付きの蔵之進(入江)は2人の忍者(阿部、橋本)によって助け出される。悪家老を操る黒幕おやや(高田)とその指令を受けた地獄谷のおろち丸(古田)及び七人衆、北浦側の忍者や彼らと手を組んだ森の山賊一味が入り乱れ、姫と姫の持つ隠し軍用金の地図を探す。 姫を助ける忍者2人がいちおう主役だが、次々登場するおかしなキャラとその得意ワザが本当の見せ場。彼らは一様に敗れた先発組を「お笑いは終わり」と退け「本命はオレ」と見得を切るが、同じ轍を踏むことはすぐに証明される。本当の得意は「裏切り」と「どっちつかず」だけ、これで彼らに勝る相手はいない。けれど、卑怯もお間抜けと差し引きで憎めない連中ばかり。「恐ろしいのかおもしろいのかわからない」その自嘲が唯一ホントなのだ。 本作最大の見せ場は2幕冒頭の悪夢のシーン。劇中劇なので本編以上に何でもあり、主人公猿飛にひっかけ、サルカニ合戦をマイケル・ジャクソン風のダンスバトルでミュージカルに仕立てる。ほぼ全員が登場して猿、カニ、ハチ、ウス、フンに扮しての大熱演、元アイドル馬渕もレオタードに被り物がうれしそう! これこそ幼稚園のお遊戯会を大の大人が金をかけ、真剣に演ってのける究極の遊び。市民権を得たロックもかつては怒れる若者の象徴。新感線にロックが似合うのは、いつまでも子供心を忘れないから。商業演劇を震撼させる新感線は永遠のアンファンテリブルなのだ。
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