log osaka web magazine index
WHAT'S CCC
PROFILE
HOW TO
INFORMATION
公演タイトル
パフォーマー
会場
スタッフ・キャスト情報
キーワード検索

条件追加
and or
全文検索
公演日



検索条件をリセット
孤独を発信する運命共同体の人とケータイ 西尾雅
「おいていかれようぜ」。ポップでポジティブなタイトルに感激。バスに乗り遅れるなと群がり、我先に乗り込んでついにバブルがハジけたのはひと昔以上も前。未だ後遺症を引きずるこの国にあって、置いていかれようともくじけぬ前向きがいまどき。他人はどうあれ自分を見失わない意思表示に共感できる。

ふだんは作(大正まろん)と演出(寺岡永泰)を分担する流星倶楽部が作・演出とも大正、しかも女優4人だけで番外を打つ(新人男優がバイク便の男に扮してケータイ注意を促す前説あり)。山本、藤里が入団ほぼ2年「みかちゃんち」(02年11月)で共演済みだが、同作に客演した主役の吉岡が正式加入して最もピカピカの新人とはうれしい驚き。小柄な女優陣に大型新人・平田(元遊劇体)も参加して、少人数のまとまりも新鮮。

本社の通販受注からハズれたあやしい電話サービスが専門の子会社。スタッフは出会い系サイトのサクラを演じるパート・井上(藤里)と本社から左遷された元エリートの女性社員(平田)だけ。今日が初出社の新人パート2人は同姓なのに性格は対照的、田舎出身で世慣れない葵(山本)は要領もわからず驚くことばかり、逆に慣れた電話応答で客をさばく三咲(吉岡)。そこに、待てど出社しない上司が、来ないも当然、自殺との報が入る。

バツイチの上司への手作りお弁当の差し入れアプローチが不発だったことに井上は衝撃を受ける。上司と付き合っていたのが実は三咲で、出会い系で始まった女に本気になれないとはねつける彼を追って、彼女がストーカーして就職にこぎつけたとわかる。サクラを仕事にしているのに、本気の恋には自分を見失う。喜ばれもせぬお弁当を日参する井上は、三咲を笑えない。誰もが自分の無力さに無自覚なのだ。

井上の差し入れ弁当も、遊びの一線を超えた三咲の本気も彼には迷惑。他人のことはわからない。自殺の原因は会社の金の使い込みの発覚。真面目を装った彼に全員が騙されていたのだ。彼の実態と心の不透明さ以上に自分がわからない。ミイラ取りがミイラになるように、サクラベテランの三咲が恋の罠に絡め取られる。誰もが淋しさを抱え、つながりを求めて、自分の存在を発信する。孤独をケータイに託して。人が永遠に淋しい生き物なら、その分身であるケータイが出会い系サイトにつながるのは必然かもしれない。

流星倶楽部の魅力は、細部のリアリティにある。登場人物それぞれに暖かみや奥行きがあり、息をする人間が感じ取れる。悩みを抱え、けれど生活力とたくましさを備える。彼女らの明るさは、プロローグとエンディングに振付とともに歌われるコーラスに凝縮される。通勤ラッシュにうんざりの様子にも、混雑を凌駕するバイタリティがにじむ。それが、ひとつふたつの失恋に負けやしない女性の生命力を証す。では男性は、自殺と思われた上司が実は行方不明というオチがつく。気弱い男は逃亡するのみ、そのズルさも憎めない。男と女がいる限り、孤独が生み出す悲喜劇は終わることがない。

キーワード
■恋愛
DATA

TOP > CULTURE CRITIC CLIP > 孤独を発信する運命共同体の人とケータイ

Copyright (c) log All Rights Reserved.