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時代と並走する切実さ 西尾雅
観客動員も多く客席の反応も上々なのに(この日のト社は平日マチネにもかかわらず立見が出る大入り)、エンタメ系劇団が演劇評に取り上げられることはほとんどない。ファントマ、ランニングシアターダッシュ、世界一団、赤鬼、エビス堂大交響楽団などを批評の対象から無視する風潮は残念(身内ボメで恐縮だが、世界一団「空飛ぶ遊園地」を栂井が取り上げたのはウレシイ)。むろん問題提起よりも、楽しんでもらえばいい劇団の姿勢にも原因はある。そこで登場するのが「楽しいだけじゃない、知識欲も満足」とエンタメをヒネり、オモタメ系を標榜する劇創ト社。おもしろくてタメになるがそのココロ。

歴史をテーマにすることが多く、「琉球白書」で島津藩に抵抗する琉球王・尚寧、「10勇士伝」で豊臣方最後の意地を見せる真田十勇士、「YELL!」で騎兵隊の横暴に反逆するインディアン、「FAKE!」で不利な相続権を智略で覆す徳川秀忠に焦点を合わす。歴史をただ再現するのではなく咀嚼し、ときに史実と異なる改変を加え、現代に通じる物語に装いを改める。ト社の視点による人物の解釈や事件の解明がユニークで、たしかに自分で歴史をひもときたくなる。

歴史モノでも、衣装は斬新で現代風にアレンジされる。「FAKE!」で徳川家の将軍跡目争いを会社の社長交代劇に置き換えたスーツ姿が印象に残る。「10人写楽」は、正体が謎の写楽の時代と現代が交差して進行する。江戸は版元蔦屋に出入りする浮世絵師や作家たち、現代は美術品窃盗団に扮して全員が2役切替。黒シャツ+パンツの窃盗団が着物を羽織るや江戸の世界にスイッチする。早替えによるスピーディな場面転換と、バックサスから飛び出し、身長を越す2段ステージから飛び降りるめまぐるしさに躍動感があふれる。劇団名の劇創に激走の意も含む所以だ。

役者の勢いだけでなく、スタッフワークのバランス良さが劇団の魅力。これは作・演出が他の劇団でも舞台監督を務める視野の広さゆえ。早替えを可能にするモダンな衣装や高さを生かした装置、それに合わせた照明もマルだが、最大の特徴はDJ音楽と音響にある。前半をジャズ系でしっとりさせ、中盤以降は得意の日本語ラップで攻める。台詞の邪魔と嫌われがちな日本語の歌詞、それも早口のラップ系音楽を多用。舞台空間を役者が縦横無尽に駆けるように、時間を歌詞とリズムで埋め尽くす。サビで使用したソッフェの「人生一度」のせつない美しさは裏切りの苦悩を浄化する。選曲センスに時代と並走するト社の切実がにじむ。

仲間の裏切りによる窃盗団の危機を、手鎖刑に処せられる蔦屋や切腹申しつけられる恋川春町、そして幕府の風俗取締に苦しむ浮世絵界に重ねる。仲間を裏切ったのは誰で、恋川を密告したの誰か。そして犯人はなぜ裏切ったのか。裏切りに気づきながらボスはなぜ見逃していたのか。犯人は江戸、現代を通して同一の役者とわかる。まるで2役の犯人を演じたのではなく、時代を超え輪廻した同じ人物のように。売るためにはダミーの浮世絵師を擬装した蔦屋の工作が、彼を裏切りに走らせる。写楽と名乗れない苦しみ、アイデンティティーの混乱が哀しい結末を生む。見て見ぬ振りをするボスの温情が裏目に出ることもある。

ト社に一貫する滅びる者への敬意、そして弱者に向けるまなざしのやさしさ。島津藩に抵抗する琉球や徳川に徹底抗戦する真田十勇士、あるいはインディアンを誇る酋長。秀忠への視座もお世継ぎ最有力候補ではなかった事実にある。正体を隠さざるを得なかった写楽を推理する根拠もそこにある。おのれを隠す苦悩と、仲間を裏切る痛みは重なるのではと。描かれるのは、現代の私たちにも共通の思い。生きるせつなさに「今」を激走するしかないのは、江戸も現代も変わらない。

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■歴史 ■エンタメ
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