臭いとか大丈夫だったんですか?
ガラスケースに閉じ込めているから、臭いもしないし、美しいんですよ。けっこうカエルが好きな人が集まって、ずっと眺めてたり。
そのバーにはずっと藤さんが?
ずっといましたね。僕からすると、鹿児島でお店をやっていたので、お店のノウハウも身についていたので、自然に「いらっしゃいませ」って出迎えて。石橋のことなど、みんなといろんな話がしたかったんだろうね。銀座4丁目でレストランが入っているような複合ビルの8Fだったので場所も良かったこともあって、普通のカフェだと思って入って来る客が多かったですね。
普段そこはギャラリーなんですよね?
そう、普段ギャラリーなんだけど、ほとんどのお客さんがお店だと思ってたと思いますよ。2週間で2000人くらい入ったかな。普段の10倍くらい。コーヒー200円とかビール300円とか安かったからね。おもしろかったのは、入ってくるお客さんの視線の違い。いつものギャラリーのお客さん、展覧会を見に来る人は作品を探そうとするし、お店だと思って入ってくる人は、まず客席とメニューを探すのね。視線のやり場が違うのでどの種類の客かすぐ分かるんです。そうやって見ていると、ほとんどの人はお店として入って来てましたね。どちらのパターンでも「いらっしゃいませ」ってメニューを渡していました。注文することは強制しなかったけどね。 短い期間だったのですが常連客も何人も出来ました。近くのデパートに勤めているカエル好きの女性は、夕方になると毎日現れて必ず窓辺に座ってカエルを眺めてコーヒーを飲んで、ため息をついて帰っていく。最後の日に、「毎日ありがとうございました。明日でもう終わるんです。すみません。」って話しかけたら、「えっ、なんで終わるんですか?この間オープンしたとこですよね??」って驚いて...。期間限定って書いてあるのになんにも見てなかったり。「いい店が出来た」と思って毎日来てくれていたので、「2週間限定なんです」って説明しても「なんでなんですか??」って、ぜんぜん理解出来ないって感じできょとんとしてたり。ある日、ぱりっとした服装のあやしい感じのおじさん二人で「おかしい、おかしい」って不信そうな顔して入って来て。「どうしたんですか?」って聞いたら「何なんだここは?この場所でこんな値段で店の経営が成り立つわけがない」って怒られて。すみませんって謝りながら、「期間限定でカエルを見てもらおうという展覧会なんです。」って作品の説明をしたりね。そのおじさんたちは地元の不動産屋の社長と建築事務所の社長さんで新しいお店が出来るとチェックに入るらしいのね。それでこの場所でこの広さで客席もろくになくて、ビールも良質のウィスキーも300円、コーヒー200円で絶対経営が成り立つわけがないって思ったらしいんだけど、なんとなく納得して、幸せそうにビールを何杯も飲んで満足して帰って行きました。
機能を変える
その頃、都市施設の変換みたいなことに興味がありましたね。一般的に都市施設と言われているものがいろいろありますよね。レストランとかアミューズメントだと、商業施設とか、公共施設とか。通常ギャラリーとして使われているスペースが全然異質な都市施設に変わったりとか、ある目的の空間を別の目的で使ってみるということが出来ないかってまじめに考えていたんです。一般の商業施設や公共施設がギャラリーとか美術館になるとかの裏返しですね。駅や公共のスペースや町中に作品を持ち込むことの逆の状態です。
それでふりカエルBARでは、美術館やギャラリー空間の中に街のシステム、都市の機能を持ち込むとどうなるかと考えていました。あと、カエルがかびたり腐ったりウジムシがわいたりしてある意味一番いい状態、一番元気がいいところだったんでみんなに見せたいなあと。ただ単にそれを見せるだけじゃなくて、その流れもいっしょに。なぜ、これが生まれてどういうプロセスでここにいるのか。で今からどうなるのかという生い立ちをね。
そのギャラリーは二部屋あったんで、バーの横に資料室を作って、それまでの作品が年表のようになっていて、登場人物、鯉のぼりやゴジラやハニワ、やせ犬なんかの写真があって歴史が分かるようになっていてね。自分自身も過去の作品を振り返るっていうこともやってみようと。 お客さんの滞在時間がとても長い展示でしたね。早くても30分、長い人だったら2時間くらい資料室で読み込んでいました。資料室を出て来たら今度はバーで飲みながら話をするんで、皆さんかなりゆっくりしてもらったんじゃないかな。
びっくりしたのは、バーにするとお客さんって意外とたくさん入ってくるんだなあと。ギャラリーではなかなか人は入らないけどね。 つづく
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