紙タイコという音源
1993年のアートスペース虹での初個展の時、ほとんどの人は、楽器の作品が展示されるとばっかり思っていたところ、大胆な変化球で肩透かしを食らったんです。楽器の代わりに出てきたものは、なんと壁に取り付けられた大量の紙タイコ。見に来た人がうちわで扇ぐと音が鳴るというものでした。
「この紙タイコは針金製のリム(輪)の両面に梱包材などに使われる薄い紙を張って作られている。それぞれのタイコには針金を丸めた小さな球がぶらさがっていて、風が当たると球がタイコにあたって音を出すしくみになっている。」
しかしこの時、素材の加工のことばっかり考えて作品を作っていたときにはあまり意識していなかったことが、いろいろ問題として浮上してきましてね。想定以外のことが展示期間中におこったり、お客さんの関わり方や、展示の仕方一つで作品がまったく変わってしまうというようなことが山ほど出てきたんですよ。以前楽器を作っていたときは、作った作品をズラッと並べるだけでよかったし、むしろその方が強かった。でも、そうではない展示の仕方や、微妙な差がものを言う空間全体の作品とはじめて向き合って、自分は勉強不足だったということを再認識させられたんですね。そう思って周りの作品を見直してみると、そのことに全精力をかけている作家がたくさんいることにやっと気がつきました。
そしてこの展覧会の後、音の出る「モノ」ではなく、自分は「音」というテーマで、しかも見に来る人との間に発生する「どういざなうか」というテーマにしぼって考えるようになったんです。
サウンドインスタレーション
紙タイコはその後作品の音源としてしばしば使われ、翌年(1994)にはヴォイスギャラリー(京都)では、観客が作る波の動きに合わせてこの紙タイコが音を出すというサウンドインスタレーションが発表された。
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材料:鉄食塩・水電気コイル・針金・梱包紙・空缶・その他 |
「水が張られた細長い水槽に、30コ程の紙タイコが並べて取り付けられている。それぞれのタイコには電気で動くバチがセットされており、そこから延びた電線が水面すれすれの高さにセットされた電極につながっている。水には電気が通っていて、波が起きたときのみ水面が電極に接触して通電し、バチがタイコをたたくという仕組みになっている。」
「観客が手前のレバーを操作して波を送りだしてやると、水面上に並んだ電極に次々と波の頂点が当たって通電し、その動きに呼応して手前の紙タイコから順に音をだしていく。波は向こう端までいくと反射し、今度は紙タイコは逆の順に音を出しながらもどってくるのである。水の特性、動きと距離感、時間とリズム、湿度、操作する人の性格など様々な要素がこの作品から見えてくる。」
「どういざなうか」というのはデザイン的な見せ方に通じるような気もしますが…
そうでしょうね。デザイン的な作品を作る場合、生活空間や用途に対する新しい提案をどう的確に伝えるかっていう「プレゼン」の問題がすごく大事ですよね。相手がいる以上、まあ言ってみれば一種の「サービス精神」みたいなものが必要だと思うんですけど、音を通じて僕がしようとしてることのためにはこれが必要だったということなんでしょうね。「分かりやすすぎ」とか「説明過多」とかいろいろ言われましたけど、別に現代美術だからといって眉をひそめた難解なものでなきゃいかんなんて思ってませんしね。
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