建物と音
さまざまな場所でこの「紙タイコインスタレーション」を発表していた伊達さんにまたまた転換点がおとずれる!
何度か発表をしているうちに、一つの音の中には「その素材自体の音」と、残響音のように「一旦空間と呼応した音」とがあって、どっちかって言うと(後者の)空間の特性が見えてくるような音の方がおもしろいなあと思えてきたんですね。いろんな所に紙タイコを持ち込みましたけど、建物のカタチや素材、天井の高さなんかの違いで同じ音源が場所によって全然別の音のように聞こえるんですよ。で、だんだん建物自体に興味が移ってきて、「それやったら建物そのものの音でいいやん」ってことになって、作品の紙タイコをとってしまってバチが直接壁やら柱やらをたたくようにしてみたんです。これがおもしろくってね。ワ−ッと視界がひろがるような気がしました。まあ、一つ一つの音は大分微細なものになってしまったけど、実際それが20ケ所とか30ヶ所とかで鳴ってるとけっこうちゃんと意識できて、かえってぜい肉が取れたようでスッとしました。それで「TAP
THE SPACE」というシリーズタイトルにして、これもまたいろんな場所で展示することにしたんです。
芸術祭典・京(1996年)の時に明倫小学校の廊下にこの作品を出品したときには、もう正式にタイコはなくなっていて、等間隔に設置された針金のバチが壁や窓をカチカチたたくようになってました。
この作品は、廊下を最大限に活用したすごい長い作品でしたね。
そう。全長24mです。この校舎は雰囲気のある空間で、壁面には木材もたくさん使われていましたけど、バチがたたいたのは窓のガラスと鉄枠、漆喰の壁などの20ケ所です。
この時も波の動きにシンクロして針金でのバチが手前から順に建物をたたいていったんですが、かなり長い作品だったんで最後の方の音はもう聞こえるか聞こえないかっていうくらい微細なんですね。普段の生活ではそんな遠くの小さな音にいちいち耳をすましたりはしないもんですけど、そういう音がこの作品の素材なわけで、見ていると操作している人が目では波を追っかけて、耳では聴覚をグ−ッと伸ばして建物が出す音に寄っていくのがおもしろかった。
その『建物そのものの音を素材にする』という考え方は、「建築物ウクレレ化保存計画」に大きくつながっていくわけですね。
その通りです。「TAP THE SPACE」をやってなかったらウクレレ計画は思いついてなかったでしょうね。
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