『道成寺』をなさったのはおいくつのときですか?
片山「19の時です」
確かに早い。そういえば、二十歳過ぎの頃、有名な評論家の方が、ずいぶん清司さんに惚れ込んで、養成会の東西合同発表会の記事に、「片山清司が見たいんです」って書いておられた
片山「ああ、あれは父の後援会の東京公演の時、『東北(とうぼく)』の仕舞を舞ったのを見てくださって。合同発表会の『天鼓(てんこ)』は半能やったんですけど、楽しくて。笛が一噌幸弘(いっそう・ゆきひろ/笛方一噌流)くんだったり、みんな若手で揃ってて、<盤渉楽(ばんしきがく)>を楽しく舞った記憶がありますね」
あの時分(17、8年前)の若い人って、なんか輝いてる人が多かった気がしますねえ
片山「やっぱり、それは、(その人たちが)習ってる先生がまだまだ若くて溌剌としてたし、能のお客さんたちもまだまだ多かったし。舞台に出て何か演れば、一つずつ確実に自分も“引き出し”を増やしていける、みたいな…」
ああ、そういう感じでしたねえ
片山「今、30代の後半になってきた時に、次にまた違う段階に足を踏み入れないといけないと思うんだけれども…。同じ世代の人で地謡(じうたい)のチームを組む場合でも、想いが違う人が集って一つのものを作るということの難しさを痛感したり…。一方で、自分より下の若い人たちを指導してゆくことも考えないと…。」
能は一人では出来ないけれども、かと言って、お互い馴れ合いになってはいけなかったり。ずっと一緒にいて、そういうのは、実は、すごく厳しいことなんではないかなあと思いますけど…。今、清司さんは、年齢的にも、立場としても、いろんなことを考えていかないといけないでしょう? いろんなことのバランスというか…
片山「そら、基本的に、役者は舞台に出るのが一番楽しいっていうふうにならんと、面白いもんは出来ないんですけど、同時に、我々の今の状況っていうのは、制作というものも考えていかないと何も変わらへんと思ってて。官公庁の仕事でも、長年、制作事務費っていうものを費用に計上しなかったっていうことの弊害が生じてて、それは今までの慣習がそうだったので、なかなか認めてもらえない。でも、制作費がなかったら次が出来ませんって言うて、行くたびにお願いしてるんですけど」
はい。能は今まで、出演者である役者が一切のことを仕切ってきた慣習があって、諸経費とか、その周辺で働く人の人件費なんかは全然考えてなかった。でも、やっぱり、そんなことは今は通用しないと思います
片山「かと言うて、商業ベースに乗ってしまうと、今度は人気のある演目以外は要りませんみたいなことになって、そうなると能なんていうのは面白くないし、けども、まったく赤字でええかっていうたら、そういうのも違うし。商業ベースに乗るか乗らんか、というようなところをウロウロしてるのんがええと思うんやけどね。今までは、素人のお弟子さんという緩衝地帯があって、制作の立場からすると“保険”の役割をしてもらってた。そこが痩せてくると難しくなってくる」
そうなると、パフォーミングアートとしての能の見せ方っていうのも変わってくるじゃないですか。今までお弟子さん中心の見所(けんしょ=観客席、観客)に見せてたのが、もういろんな人に見てもらわなきゃいけないっていう…
片山「今、苦しいとこでね。オーソドックスな能の作り方が嫌なわけじゃないんで、間で非常に苦しんでるんです、僕…。いろんなとこで、いろんなことやって、批判も受けたりして。でも、そういうところでやるにつけ、やっぱり能楽堂はいいな、って…」
そうですよねえ…。それに、能楽堂以外でやる時は、ほんとうにいろんなことを考えてやらないと…。能楽堂と同じことをやってたんではだめですし
片山「ただ、例えば、この間、<府民ホール・アルティ>で演った<世界水フォーラム>の『渇水龍女(かすいりゅうにょ)』なんかでは、いろいろ批判されたりもしたけど、一つ、成果として誇れるかな、と思ったのは、あれだけガチャガチャしてたものをあれだけ整理できたんは、やっぱりスタッフとの呼吸が繋がったさかいやと思うんですよ。最初はまったくどうしようもなかったことでも、一つ一つ解決していってなんとか形になったわけやし」
批判といえば、私も拝見してて、いろいろ、いろいろ(笑)思ったことはあるんですけど(笑)、スタッフとの連携が出来てきたっていう点は、能の人たちにとっては大きな前進やと思いますねえ。それが今まで決定的に欠けてたとこやし
片山「『渇水龍女』の時でも、照明の方向っていうことがあると思うんですよ。ホールなんかでは、普通の演劇以上に照明を当てるエリアを絞り込まないと、時間の経過が感じられなくなる。一昨年のアルティでの『項羽(こうう)』の時にやりたかったのは、そういう時間の経過をどう表現したらいいかなと…能楽堂だと自然にそういうのが伝わる何かがあるんだけど。それで、水の揺らめきとか、光の角度みたいなもので表現したらどうかな、とひらめいて。そういうことのほうがシンプルで効果的なんやないかと、それは今でもそう思ってます」
能の舞台って不思議ですよね。視点がシテに集中するようにできてて…。それを普通の劇場でやろうとすると、暗くしてスポットを当てるとか…」
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