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Chance upon 〜(たまたま〜を見つける)
大学を卒業してからは、どうしていたのですか?
中瀬 僕はバンドをやりたい、浜地は美術をやりたい、というので、もう一人の友人を誘って3人で、自分達がそれぞれやりたいことが出来る場所を借りようという話になったのです。どこかに空いている工場か倉庫がないかな、と思って浜地と2人で車に乗って探し回っていたんです。それぞれ好きな音楽をガンガンかけながら。そんな時、大阪の新今宮で日曜日に路上朝市が開かれているのを見つけたんです。

古道具や古着、謎のビデオなど雑多なものが路面にずらっと並んでいまるフリーマーケットのような場所ですね。
浜地 僕らが行き始めた頃は、若者向けに電器製品や変な機械も売る店もあったんです。ある時、どさっと時計が入ったダンボール箱の中から、カシオのアンテナ付き腕時計を見つけたんです。最初は、ラジオかなと思っていたのですが、音がしない。買って帰ってから、いろいろ触っているうちに音を飛ばすトランスミッタ(送音機)だと分かった。つまり時計に内蔵されているマイクに向かって喋ると、その声がラジオで受信できるトランシーバーみたいなものだった。
 それを2人で面白がって、ドライブしながらずっと遊んでいたんです。トランスミッタをスピーカーに近づけるとハウリングして、“GUuuUWAAaaaAAaa”とテルミン(シンセサイザーの原型)のような音が出たり。けっこうハマってしまって、日本橋で安いトランスミッタやいろいろな機材を買い始めていたら、知人からテレフォン・ピックアップというマイクをもらったんです。
中瀬 これも僕たちには何か知らなくて、それに向かって喋ったりしていたんですが全然声は拾わない。いろいろいじっているうちに機械音や電気で動いているものの音だけを拾うマイクだと分かったんです。自分の乗っている車のエンジン音やワイパーの音やウインカーの音を拾う。これは面白い!となって、でっかいアンプを無理やり車に押し込んで、いろいろ実験していったんです。

最初に目的があって、それに併せて道具を集めてくるのではなく、偶然手に入ったもので遊んでいた結果だったんですね。
中瀬 「何かしたい」という動機は最初から持っているんです。でも、好きなバンドがあってもそのコピーは嫌だ。もっと別の状況で、そのバンドがやっていることに肉薄できないか。“音”で何かやるのなら、今までにない“音”を体験したいと思っていた。
浜地 誰もやっていないことをやりたかったけれど、コレだ! と思えるようなことにはなかなか出会えなかった。そんな時、“車”という場所での“音”を発見して、すごい衝撃を受けたんです。すでに用意された空間で、しかも動く。

2対2の空間だし、ギャラリーで展覧会をするのとはまったく違う環境にですよね。
浜地 僕は、この発見の前にギャラリーで一回だけ個展をしたことがありますが……なんか腑に落ちなかった。それが車だと全然違う状況になるんじゃないかなと思ったんです。
中瀬 それも要素のひとつですが、「美術」の状況うんぬんより、僕らが感じたことの方が大切なんです。その音を見つけた瞬間が4人乗りの車だったということが大切。芸大にいる頃から先輩や友達や先生の個展に行ってましたが、「美術」に対して楽しみは僕には見いだせなかった。音楽の方が面白いと思っていたし。だから「美術」の状況に対する不満どうこうでなく、“車”を見つけた時に「すごい!」と思った。頭で考えたのではなく身体で反応していた。

シンプルで気持ちがいい!
浜地 当初は、レコーディングやビデオで記録することは、かたくなに拒否していましたね。“音”だけ取り出すことはやめようと。
中瀬 もったいないですから。“音”でこんなに風景が変わる体験を切り取ってしまうのは。

Title: Gasoline Music & Cruising
Year: 1994
 
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