『渇水龍女』は大阪城でもなさいましたよね。
わかぎ「ああ、毎年やってはる大阪城の薪能。うちの母は(『渇水龍女』を)見たって言ってました。毎年見にいってるし」
大槻「両方に橋掛りを付けてね」
わかぎ「へえぇ。大掛かりなんですねえ」
大槻「そう。道具も大掛かりで、大きな太鼓があって、その中に子どもが入ってるの」
入り乱れてチャンバラもあったり。(能では<斬り組>という。)
わかぎ「へえぇ。すごいケレン味のある」
大槻「異民族の抗争みたいな場面があってね」
わかぎ「チャンバラ…」
<仏倒れ>とか<宙返り>とか、大槻さんは<仏倒れ>、今でもしはりますよね。
大槻「もう、せぇへん(笑)」
痛いですもんねえ(笑)。わかぎさんのお芝居は、器械体操みたいだと伺いましたが。
わかぎ「はい。(笑)コロコロしますよ。回転とかも。バク転とかもするし。トンボも切るし。体が動くことだけがね(笑)」
大槻「ほんと?すごいね」
わかぎ「運動場のない学校だったので、器械体操をやらされてたんです」
お稽古の時も、まずそれから入りはるんですか?
わかぎ「そう。やれない子はたくさんいるんで、やれる子をオーディションして取ったりするんですけど」
能のほうは、若い人でも<仏倒れ>が出来ないからって、あなたは舞台に出られませんっていうことは…ない…ですよね…。
大槻「情けないよなあ」
すいません。歌舞伎だと、最近、国立養成制度卒業生の若い人たちが身体を張って、美しい立回りを見せてくれるので、それだけでもう、涙が出たりするものですから、つい、こういう質問を(笑)。
アクロバティックな離れ業を見た驚き、それだけでは涙が出るほど感動はしない。舞台にかける心意気、一つの舞台を作りげるために費やされた時間、努力、そして、それをさりげなく、美しく見せるところまで持ってゆく鍛錬…そういうものが見ているこちらの心に響いてくるのだ。最近の能では、例えば、若い人が<斬組ミ>で太刀を持って対決するような場面でも、気迫を感じられなかったり、全体の動きが緩慢で美しくなかったりすることがあまりにも多い。離れ業をするのがよいということではない。身体を張るような覚悟や情熱、より高みを目指す意欲がほしいのだ。
大槻「猿之助さんのとか見てたら体操やもんな」
わかぎ「パーティ〜っ!みたいな」
本水!宙乗り!
大槻「サーカスと体操みたいな」
わかぎ「京劇と!」
宝塚と京劇と歌舞伎と合せたような。
わかぎ「おなかいっぱ〜い!(笑)」
また話がそれてしまった。
わかぎ「こういう、能楽NOTEみたいな、ほんとになんにも知らない人たちのためのものって、(能楽NOTEがスタートした)三年前が初めてだったんですか?カルチャーセンターとかでは?」
単発ではありましたけどねえ。
大槻「若い人たちがいろいろやってるけれどもね」
内容としてはレクチャーとちょっとした実演という、よく似た形ですが、能の役者でもなく、研究者でもない人をゲストにお迎えして、というのは、大阪でははじめてですよね。
わかぎ「ねえ。びっくりやねえ。私、びっくりしました」
わかぎさん、うまいことわからないふりして聞いてはりますよねえ。
わかぎ「最初、このお仕事のお話をいただきた時の条件は、能は見たことないけど古典に詳しくて(笑)っていう、で、女の人っていう探し方をなさってたらしいですよ(笑)。うちの事務所の別の子にお話をいただいて、その子から私にって。その子はあまり古典に詳しくなくて」
わかぎさんは、歌舞伎とか文楽とか、小さい頃からかなりご覧になってたんですよね。
わかぎ「まあ、単純に父親が三味線をやってたので、なんか、なんとなくなんですけど」
大槻能楽堂の近くにお住まいなんですよね。
わかぎ「こちらには伺ったことはありますよ、何回も。だって、今日はチャリンコで来ましたもん。私、高校は相愛学園なんですよ」
相愛学園は、毎年、大槻能楽堂で学生鑑賞能を催している。
わかぎ「その時に、あまりにも家から近いから、私だけ学校に帰らずに(笑)。先生、帰っていいですかって。歩いて5分くらいだし」
わかぎさんが高校生の時にご覧になった能は、大槻さんのシテだったかもしれないですね。大槻能楽堂の改築前の建物の時ですよね。その頃から相愛学園は学生鑑賞能をなさってたんですか?
大槻「うん。相愛学園いうたら、学生鑑賞能は、もう4、50年やってはるんちがうかな」
わかぎ「明治からある学校なので」
大槻「その頃(わかぎさんが高校生の頃)いうたら、ほかには梅花高校、清水谷高校とかがしてはったかな」
学生鑑賞能の数は増えてますか?
大槻「うん。増えてきてるねえ」
最近の学生さんの反応っていうのは変わってきていますか?
大槻「やっぱりね、楽器を触ってもらうような体験コーナーっていうのは反応がいいみたいやね」
わかぎ「なんか、(ただ見せるだけというより)能楽NOTEでやってるようなことのほうが、学生のウケもいいと思うんですけどねえ」
大槻「うん。でも、今までやってきた学校は、従来のやり方のほうがいいって言わはるしね」
やり方を変えるというのは冒険ですしねえ。
大槻「うん」
まず先生に能楽NOTEのようなのを見に来ていただいたら?
わかぎ「ねえ」
大槻「そうだね」
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