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棚橋さんが懐かしい写真を持ってきてくださった。
これ、話のきっかけにちょっと見てくれはりますか。
師匠「これね、大正のはじめ頃の」
お姐さん「かわいらしいね、これ」
写真に写っているのは棚橋さんのお父さんのいとこ。<ちゃら江>さんという北新地の芸妓さんの舞妓時代。
お姐さん「ちゃら江さんて、ちゃら江姐さんやろ?高橋っさん(=清元延国栄さん)のおばさん。へえ…。かわいらしいな、これ」
棚橋さんが、松尾さんの店に古いアルバムを持ってきて見せているとき、延国栄さんもお店に来ていて、今まで何度も顔を合わせているのに、その時はじめて親戚だということがわかったという経緯があった。
お姐さん「ほうーっ!ほうでっか。へえ。いや、こんなかわいらしいのはじめて見た。いや、もう、ちゃら江姐さん言うたら、ものすごう声のええお方でね。地方(じかた)さんのバリバリでしたからな。この姿(=舞妓姿)したのん見たことない」
棚橋さんのお父さんは京都・西陣の出身で天満で魚問屋を営んでいた。お父さんのいとこには、文楽の鶴澤寛市さんもいて、棚橋さんの親戚には古典芸能関係の人が多い。
松尾さんも、お母さんは北新地の名妓。駒香姐さんの後輩になる。その頃からのご贔屓の縁もあって、松尾さんの店には芸能関係、特に古典芸能関係のお客さんも多い。
お姐さん「ほな、私、あの写真持ってきといたらよかった。あの、こないだね、テレビに出た時、写真映ってましたやろ。あれね、おりき姐さん言うてね、清元のね。その時、『浪花をどり』いうのがありましてね、昔」
師匠「はいはい」
お姐さん「一番終いの日に<スカタン会>(役を替えたり、趣向をしたりする面白い会)ありまんねや。25日間でしたがな、昔は。もう、ようけ人があってあって。おりき姐さんが切符買う言うてくれはって。『夫婦善哉』いうのがおましたやろ。よう流行ったことがおますがな、森繁さんの。その時にな、ちょうど北の新地もあれ演ろう言うて、私も出たんですねん。それがな、もう5月の暑いさながらにな、冬のことせんなりまへんね」
師匠「ははあ」
お姐さん「それがな、あの森繁がやった柳吉っつぁんの役をやってる姐さんが、まっじめなお方でんねや踊りになったらな。ほいで、やってたらな、この、マフラーが暑い暑い言うてな(笑)」
師匠「(笑)夏にやられたらたまらんな」
お姐さん「ほいだら、ふっと顔みたら、むこういーっぱい汗かいてはりますねん(笑)。笑われへんし」 |
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